第八章


 ザクザクと雪を踏み分けてロイは湖への道をたどる。暖かい季節は緑が生い茂っていた道は、雪が深く降り積もり進めば進むほど歩くのが困難になっていた。
「くそッ」
 今では腿の辺りまで雪に埋もれながら、それでもロイは進むのをやめなかった。冷静に考えればこれ以上進むのは到底無理で、今すぐ引き返さなければ早晩戻るのも難しくなるのは目に見えていた。それでも。
「絶対ハボックに会うんだ」
 ロイは白い息と共にそう言葉を吐き出す。手で空気を漕ぐようにして必死に前へ前へと歩いてきたロイは、ハアハアと息を弾ませて立ち止まった。
「あとどれくらいだ?」
 そう呟いてロイは辺りを見回す。だが、雪に埋もれた森は何処も彼処も同じに見えて、距離間が全く掴めなかった。
「湖まで行けばきっと何とかなるはずなんだ」
 肩で息をしながらロイは呟く。キッと正面を見据えて再び歩きだしたロイは、だが数メートルも行かないうちに雪に足を取られて倒れてしまった。
「あっ!」
 慌ててついた手は雪の中にズブズブと潜り込んで、ロイは雪に埋もれてしまう。もがくようにして何とか起きあがったものの、体は雪塗れでコートの中にまで雪が入り込んでしまっていた。
「ちくしょう……」
 ロイは顔や髪についた雪を手のひらで払う。中に入り込んだ雪が冷たくて、ロイはコートを脱ぎ捨ててしまった。
「歩いてれば暑くなる」
 実際雪の中を歩いて息があがった体は内側から発する熱で暑くなってきている。ロイは投げ捨てたコートをそのままに、雪をかき分けて足を進めた。だが。
「ハアッハアッ!!」
 踏み出した足を軸にしてロイはもう片方の足を前に進めようとする。だが、長いこと雪をかき分けて歩いてきた足はすっかりと冷えきって鉛のように重たく、持ち上げることが出来なかった。火照った顔だけが熱く激しい呼吸を繰り返す体は氷のように冷たい。遂にロイは立っていることすら出来なくなり、雪の中に膝をついた。
「ハアッ……ハッ……」
 梢の向こうにロイは湖を探す。そのすぐ畔に立つ姿に向かって、ロイは手を伸ばした。
「ハボック……ハボック……ッッ!!」
 降り出した雪の向こうに浮かぶ優しい幻影に腕を差し伸べたロイは、冷たい雪の中に倒れ込んで意識を失った。


2012/03/06


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