| 第六章 |
| ロイは森の中の小径を凄い勢いで走っていく。昨夜己を呼ぶ声に引き寄せられるように走った道は、まだ太陽が高い今時分ですら昏く沈み込んでいた。 昨夜、カーテンの隙間から差し込む月明かりに目覚めたロイは、森を渡る風に乗って聞こえてきたハボックが自分を呼ぶ声を耳にした。そのあまりに切ない響きに矢も楯もたまらず家を飛び出したロイは、湖の中、月に攫われかけているようなハボックの姿を目にして、冷たい湖の中に飛び込み愛しい青年をその細い腕で抱き締めたのだ。その後、濡れそぼって冷え切ったロイを暖める為にハボックは少年を家に連れ帰り、ロイは初めてハボックが暮らす空間に訪れる事を赦された事で例えようのない幸せを感じていたのだが。 『送ります、ロイ』 その言葉を聞いた次の瞬間意識をなくしたロイが、目覚めて自分がいるのが見慣れた己の部屋だと判った時、そのショックは言葉では言い表せないほど大きかった。出来ることならあの場所でハボックと二人きりひっそりと暮らしていきたいとすら思ったロイにとって、ハボックの仕打ちは裏切りにも似てロイの心を深く傷つけた。 「どうして?…どうしてだ、ハボック?!」 あの湖のほとり、何度も一緒に時を過ごした。自分にとってハボックがかけがえのない唯一無二の存在であるように、ハボックにとっての自分もそうであると何の疑いもなく信じていたのに。 「どうして…ッ?」 ロイは食いしばる歯の間から絞り出すように呻く。昨夜のハボックのつれない理由を聞かないことには、ロイの胸の内を吹き荒れる嵐は収まりそうになかった。 湖についた頃にはロイの心臓は破けてしまいそうなほど激しく打ち乱れ、ロイはまともに息を吸うことすらままならない有り様だった。それでもゼイゼイと肩で息をしながらロイは湖のほとりを金色の光を探して見回した。だが。 「いない……」 ハボックと初めて森で出逢ってから、一度としてハボックがここに来ていないことなどなかった。ロイの方が体調を崩して来られない事があっても、ロイがここにくれば必ずハボックが優しい笑みを浮かべて迎えてくれたのに。 「どうして……?」 こんな風に拒絶される理由が判らない。 「こんなの……絶対赦さない、赦さないからな…ッ!」 ロイは両手を握り締め、声を限りに叫んだ。 「ハボックッッ!!」 血が滲むようなロイの悲痛な叫び声が、青空の下、静かな湖面をたたえる湖の上を流れていった。 2010/10/21 |
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