| 深淵に偲ぶ恋 第八章 |
| 「ところで、どうして私がここにいると判ったんだ?」 ロイはあと少しになったジェラートを残して先にコーンを齧りながら尋ねる。ハボックは煙草の煙を吐き出して答えた。 「天気がいいから」 「は?」 「イーストシティで天気がいい時はここに来たくなるんスよ」 そう言いながら己の瞳と同じ色の空を見上げる男をロイはしげしげと見つめる。 「それってただの勘じゃないのか?」 「そうっスよ。だって全然当てなかったし。オレ、勘には自信があるんスよ」 そんなことを言ってニッと笑うハボックにロイは呆れたため息をつく。パリッとコーンを齧って言った。 「SPがそんないい加減なことでいいのか?チェンはお前のことを優秀なSPと言っていたが」 本当なのか?と眉を顰めるロイにハボックは笑みを浮かべる。 「優秀か優秀でないかは自分じゃ判断出来ないっスけど、護衛対象を守る自信ならあるっスよ。自分の体張ってでもね」 「────そういうのは好きじゃない」 視線を地面に落として低い声でそう呟くロイにハボックは僅かに目を瞠った。いつもとどこか様子が違うロイにハボックが何かいう前にロイが口を開く。 「大体お前が体を張って私を守ったら次は私が危なくなるじゃないか」 「なるほど。そういう考え方もあるっスね」 ハボックはプカリと煙の輪っかを感心したように吐き出した。 「まあ、アンタがあんまり勝手なことをしなければそんな危険もおきないっスよ」 自分の行動をさりげなく咎められて、ロイは口を噤む。最後のジェラートをスプーンで掬ってコーンを口に放り込めばハボックが言った。 「どこに行きたいっスか?あの雑誌見たんでしょ?」 ハボックがそう言うのを聞いてロイが「なあんだ」という顔をする。視線で尋ねてくるハボックにロイは言った。 「勘とか言いつつちゃんと根拠があるんじゃないか」 「そりゃあ情報はちゃんと役立てないと」 澄ました顔で言うのを聞いてロイは眉間に皺を寄せてため息をつく。膝の上に散ったコーンを払って立ち上がるとハボックに言った。 「それじゃあ、まずは初心者向けの観光コースを頼むよ」 「まずはって」 何度も行く気か?と内心思いつつハボックは頷く。ロイを促して広場を出ようとすれば、ロイが足を止めて行った。 「その前に欲しいものがあるんだが」 「なんスか?」 ロイが歩き出すのについていったハボックは、一つの屋台の前で立ち止まるロイを見て首を傾げる。 「ここ?」 「ああ」 ロイは頷いて屋台に近づくと、さっき見たままに置いてある螺鈿細工の小箱を手に取った。 「これ」 ロイが言うのを聞いてハボックは財布を取り出す。屋台の男に「くれ」と一言言えば、二人を見た男がニヤニヤと笑って言った。 「彼氏連れてきたんだ。やっぱアンタくらい綺麗だと男もほっとかないんだねっ」 「は?」 男の言葉を一瞬理解出来ず、ポカンとするロイに構わずハボックは金を払うと小箱の入った袋を受け取り、ロイの肩を抱いて屋台を離れる。やれやれとため息をつくハボックを見上げて、ロイは尋ねた。 「今のはどういう意味だ?」 「ああ、深く考えない方がいいっスよ」 「でも」 「いいから。ぐずぐずしてると時間なくなるっス」 ハボックはそう言うと広場の出入口に向かう。そこで少し考えてからハボックはすぐ側の建物に向かった。 「そこに何かあるのか?」 特に変わったところもなさそうな建物を見上げてロイが尋ねる。そうすれば短いステップを上がって扉を開けながらハボックが答えた。 「スクーター借りましょう。その方が早いしラクチンだ」 そう言って中に入るとハボックはカウンターに歩み寄り係りの女性に話しかける。ハボックが手続きをしている間にロイは置いてあったパンフレットをパラパラとめくった。 「どれか乗りたいのあります?」 ロイがパンフレットを見ているのに気づいてハボックが言う。ロイはたまたま目に付いた真っ赤なベスパを指さした。 「これがいい」 「また随分派手なのを」 やれやれとため息をついて、それでもハボックはロイの希望のスクーターをレンタルする。建物の中を通って裏の駐輪場へ行くと、係員が用意したスクーターを見てロイが目を輝かせた。 「私に運転させてくれ」 「はあ?なに言ってんスか」 ダメに決まってるでしょうと、赤いボディを撫でるロイを押し退けてハボックが言う。だが、ロイはハンドルをギュッと握ってハボックを見上げた。 「いいじゃないか。こう言う時でもなきゃ運転なんて出来ないんだから」 「これ、ギアチェンジするんスよ?出来るんスか?つか、アンタそもそも免許なんて持ってんの?」 王族なら車を運転する機会もないのではと言うハボックにロイはニヤリと笑ってみせる。 「持ってる」 「ホントに?」 疑わしげに見つめるハボックに、ロイは財布から免許証を取り出してみせた。 「なんで免許なんて」 持ってるんだ、と眉を寄せるハボックにロイはフフンと笑って見せる。 「これで文句ないだろう?」 「オレが後ろで二人乗りってなんかカッコつかないんスけど」 「うるさいな、嫌なら走ってついてこい」 「冗談っしょ」 いくら体力に自信があってもスクーターについて走るような無尽蔵なものは持ち合わせてない。 「判りました。くれぐれも無茶な運転しないでくださいね」 「判ってるとも」 黒曜石の瞳を輝かせて言うロイに、ハボックはため息をつきながらも笑みを浮かべた。 |
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