パワー! その8


 弾むような足取りで約束の場所にやってきたロイはきょろきょろと辺りを見回す。木の陰に金色の光がチラリと見えて、ロイは顔を輝かせると側に近づいて行った。

 ホークアイは司令室に運び込んだ資料を仕分けしながらハボックに聞く。
「准尉、中佐に用事があったのではなくて?」
「中佐に?いえ、特に何もありませんけど」
 仕分けを手伝っていたハボックがキョトンとして首を傾げた。まったく覚えがなさそうなその顔にホークアイが自分の勘も鈍ったかと眉を顰めた時。
 ドドドドドという地響きのような足音が聞こえたのに引き続いてバアアンッッ!!とぶち壊れるほどの物凄い勢いで扉が開いた。
「ハボックッッ!!!」
「はいっっ!!」
 物凄い形相で司令室に飛び込んできたロイに、ハボックが仰天して飛び上がる。弾かれたように立ち上がったハボックにロイがツカツカと近づいてきた。
「どういうことだっ、これはっ!!」
「なっ、なにがでしょうか、中佐?」
 怒髪天を突くようなロイを前にすっかり怯えてしまったハボックに、ホークアイが急いで立ち上がると二人の間に割ってはいる。
「中佐、落ち着いてください。准尉が怯えてます」
 空色の瞳に涙を滲ませるハボックを背後に庇ってホークアイが眦を吊り上げて言った。ロイはホークアイの冷たい眼差しに一瞬怯んだものの懐から取り出したものをハボックに見せた。
「これは准尉が私にくれたものではないのかね?」
「えと、確かに渡したのはオレっスけど…」
「約束の場所に現れたのはお前じゃなかった。どういうことだっ?!」
 ホークアイを押しのけんばかりの勢いでズイと近づいてくるロイにハボックが空色の目を目いっぱい見開く。その幼い表情にロイが場所柄もわきまえず喰っちまおうかと思ったとき、ホークアイがロイを押しのけた。
「一体何なんです、それは」
「少尉、君は黙って――」
「ラブレターっス。総務の女の子から中佐に渡してくれって頼まれて、それで、オレ…」
 ハボックの言葉に2人がピタリと動きを止める。じっと見つめてくる2対の瞳に気おされながらハボックは必死に言った。
「総務の女の子に自分じゃ渡せないからオレから中佐に渡してくれって頼まれて…。だからオレ、彼女の手紙を中佐に渡して、中佐忙しいから読むの忘れたら困るからちゃんと読んでくれってそう言って、その…」
 ハボックの説明を聞くうち、ロイの顔は呆然として肩は力なく落ちてしまう。ロイは2人に背を向けるとよろよろと司令室を出て行ってしまった。
「あ、あの、中佐…?」
 そのあまりの落胆振りに慌てて追いかけようとしたハボックの腕をホークアイが掴む。振り返れば満面の笑みを浮かべたホークアイの顔があった。
「少尉、追いかけたほうがよくないっスか?」
「大丈夫よ。放っておいて構わないわ」
「でも、オレ、何かとんでもないことをしたんじゃ…」
「中佐が勝手に思い込んで一人で舞い上がった上撃墜されただけだから気にしなくていいのよ」
 ホークアイはそう言ってにっこり笑うとハボックの目尻に残っていた涙をそっと拭く。
「さ、急いで終わらせちゃいましょう」
「は、はい」
 ハボックはロイが出て行った方を気にして振り向いたものの、ホークアイに促されるまま資料の仕分けを続けたのだった。


2007/11/11


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