パワー! その5


 ロイは不機嫌だった。押し寄せる書類の山もうっちゃって、定時に上がって待ちに待った楽しい飲み会。目の前には愛しい愛しい金髪の部下。本来なら上機嫌の筈なのに。
 ロイは手にしたグラスをグッと煽ると目の前に座る人物を見た。
 美味しそうに湯気を上げている食事の皿の向こう、テーブルを挟んだ向かい側にはハボックが座っている。時折こちらを見てはにかむ様に笑う仕草が可愛らしい。これだけなら鼻の下を伸ばしていられるのだが。
 ハボックの隣にはこれまた金髪の――蜂蜜色のハボックのそれとは全く違う硬質な光を放つそれだ――恐ろしく有能な部下が並んで座っている。まるで母親のように慈しむ視線を向ける彼女にハボックは嬉しそうに微笑んで、時折二人にしか聞こえない声で囁く相手の言葉にくすくすと笑っていた。肩が触れ合わんばかりに寄り添うハボックとホークアイの姿にロイは不機嫌さを隠しもせずに聞いた。
「少尉。ちょっとおかしいとは思わないかね」
「何がですか?」
「どうして私はテーブルを挟んでこちら側で君がハボックの隣なんだ」
「それはやっぱり上官である中佐には一人でゆっくりと腰かけていただかないと」
 にっこりと笑ってそう言うホークアイをロイは忌々しげに睨み付ける。気がつけばいつの間にやらホークアイの手がテーブルに置いたハボックの腕にさり気なく載せられているのに、ロイはカッとなって言った。
「席を替わりたまえっ!」
 いきなりガタンと立ち上がってそう言うロイにハボックが驚いて、次の瞬間ガタリと席を立った。
「すみません、気がつかなくて。少尉とじっくり話をしたかったんスね」
「え?」
 ハボックはそう言うと自分のグラスを持ってテーブルを回るとロイの方へとやってくる。
「どうぞ、中佐。少尉の隣へ」
「え?いやその…」
「すみません、オレ、気がきかなくて。あ、もしかして二人で内密の話とかしたいっスか?だったらオレもう失礼しますから」
 ハボックはそう言うとグラスを置いてホークアイを見た。
「あの、今日の飲み代…」
「いいのよ、気にしないで。気をつけて帰ってね」
「はいっ、今日は楽しかったです。ごちそう様でしたっ」
 ハボックはそう言うとペコリと頭を下げて店を出て行ってしまう。思いもしない展開に呆然としていたロイは、店の扉が閉まる音に我に帰るとギッとホークアイを睨みつけた。
「内密の話…なんてありませんわね。では私も失礼します」
 優雅に微笑んで店を出て行くホークアイに地団駄を踏むしかないロイであった。


2007/6/28



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