パワー! その14


「中佐、早く、早く、始まっちまいますっ」
「待ってくれ、ハボック!」
 会場の扉を押さえて手招きするハボックにロイは駆け寄る。ハボックはロイが傍に来ると安心したようににっこりと笑って会場の中へと入っていった。
「中佐、なるべく前に行きましょ」
「後ろの方でいいんじゃないのか?」
 人を掻き分けてステージの近くへと近づいていくハボックにロイがそう声を掛ける。
(そんなに前に行ってしまったらくっつけないじゃないかっ)
 真ん中の混み合ったスペースにいれば否応なしに体が触れ合う距離になる。そうなればいくらでも触り放題だと不埒な期待を抱いていたロイは、どんどん前へと行ってしまうハボックに大きく舌打ちした。
「ハボック!」
 少しきつめな口調でそう呼べばハボックが振り向く。ロイが立ち止まっているのを見ると慌てて傍に戻ってきた。
「どうかしたっスか、中佐」
「目立つのは嫌なんでね、あまり前に行かないでくれないか」
 ちょっと困ったような表情を浮かべてロイが言えば、ハボックがハッとして顔を紅くする。
「すんません、考えが至りませんでしたっ」
 シュンとして俯くハボックの姿の愛らしさにロイの鼻の下がでろんと伸びた。
「いや、友人のライブだし、傍で見たいと思うのが普通だからな。私の勝手を言ってすまない、ハボック」
 そう言いながら金色の髪を撫でてやればハボックがパッと顔を上げる。優しい笑みを浮かべて自分を見ている憧れの上司にハボックは頬を染めると目を伏せた。
「そんな事ないっス。一緒に来てもらえただけで嬉しいっスから」
 頬を染めたハボックがそう言ってにっこりと笑う。
(クハーッ!!なんて可愛いんだッッ!!ハボックッッ!!)
 フンッと鼻を鳴らしたロイが、髪を撫でていた手でそのままハボックを抱き締めてしまおうとした時、ギュイイインとギターの音が響いて、一瞬会場の明かりが消えた。
「あ、始まった!」
 次の瞬間パッとライトがついたステージに先ほどトイレで見た男を初めとするメンバーが並んでいる。
「中佐、始まりましたよっ」
「ああ、そうだな」
 満面の笑みを浮かべてステージを指差すハボックにロイは不満を押し隠しながら頷いた。
(まだ始まったばかり、チャンスはいくらでもあるさっ!)
 歓声と共に始まったステージを楽しそうに見つめるハボックの横顔を見ながら、ロイは拳を握り締めたのだった。



2009/01/14


→ その15
その13 ←