パワー! その12


「意外とドジっスね、中佐って」
 ハボックはくすくすと笑うと、堅く絞ったハンカチでロイのセーターに零れたケチャップを拭きながらそう言う。大きな手が器用にもセーターの汚れを拭き取っていくのを見つめながらロイは息を詰めた。
 少し前屈みになってロイのセーターを拭くハボックの空色の瞳は、伏せ目がちになって思いがけず長い睫に覆われている。金色の髪がフワフワとなびいてロイの鼻先を掠めて、そこはかとなく漂うよい香りにロイの手が誘われるように持ち上がった。突然ガシッと両肩をつかまれて、ハボックが驚いて顔を上げる。その幼い表情にロイはごくりと唾を飲み込むと掴んだ手に力を込めた。
「ちゅうさ?」
 きょとんとして小首を傾げるハボックにロイの鼻息が荒くなる。
「ハ、ハ、ハ…」
 名前を呼ぼうとしてだらしなくも口ごもるロイにハボックが眉を顰めた。
「中佐、風邪っスか?ちゃんとあったかくしておかないとダメっスよ?」
「いや…っ、そうではなくてっっ」
 このまますぐそこのトイレの個室にハボックを押し込んでしまおうかとロイが思ったとき。
「おっ、ハボック!こんなところにいたのか!」
「あ、マイク!」
 突然入ってきた大男がハボックに声をかける。それに答えたハボックがロイを見ると言った。
「中佐。今日のライブに出るバンドのリーダーのマイクっス」
「うわ、マスタング中佐!中佐に聞きに来てもらえるなんて光栄ですっっ!」
 ハボックに紹介された男がロイの手をガッシリと握るとブンブンと振る。
(せっかくいいところだったのにっっ!!)
 乱入されたロイが腹立ち紛れに握られた手を思い切り握り締めれば相手が喜んで握り返してくる。ニコニコと渾身の力を込めて手を握り合う二人をハボックは不思議そうに見つめたのだった。


2008/2/6


→ その13
その11 ←