パワー! その10


「中佐!」
 待ちに待ったライブ当日。スキップしそうなほど軽い足取りで待ち合わせ場所にやってきたロイの目に、自分に向かって大きく手を振るハボックの姿が飛び込んできた。
「ハボック!」
 飛ぶような勢いでハボックに駆け寄るとロイは言う。
「すまん、待たせたか?」
 そう言えばハボックがにっこりと笑って答えた。
「いえ、オレも今来たばっかりっスから」
 そう言って笑うハボックはジーンズに人気スポーツメーカーのロゴの入ったパーカータイプのトレーナーを着ている。普段、軍服姿しか見た事のないロイにとって、その姿はあまりに新鮮で魅力的だった。
(なんてカワイイんだっ、ハボックっっ!!)
 思わず伸びそうになる鼻の下を必死に引き締めてロイも微笑む。ハボックは敬愛する上司の姿をじっと見つめると言った。
「中佐、私服姿もカッコいいっスね。」
 そう言われてロイはスラックスにシャツとセーターを着込んだ自分の姿を見下ろす。
「そうか?ライブに行くには不似合いな格好だったかな」
 私服もどちらかというときっちりした服が好きなロイはトレーナーなどの類は生憎持っていない。それでも流石にスーツやジャケットはと思い、深い藍色のセーターを引っ張り出してきたのだ。
「そんなことないっス。中佐にすげぇ似合ってます」
 そう言ってはにかむように笑うハボックにロイは思わず顔が緩んでしまう。促して歩き出すハボックの体の横で揺れる手をじっと見つめてロイは思った。
(デートなんだ、手ぐらい繋いだって…っ)
 そう思ってさり気なく手を繋ごうと思うが何故だか強張った手はなかなか動いてくれない。普段女性とデートする時など、手どころか簡単に肩だって抱ける自分の思いがけない体たらくにロイは心の中で必死に己を叱咤した。
(どうしたっ、ロイ・マスタングともあろう者がデートの相手と手も繋げないとはっっ!千人斬りの名が泣くぞっ!!)
 ふんっと鼻を鳴らして景気をつけるとロイはその勢いのままハボックの手を握ろうとする。だが、ロイの手がハボックのそれに到達する直前、ハボックはその手を上げると前方を指差した。
「中佐、あそこっス」
「えっ、ああ、あそこか」
「さ、急ぎましょう」
 そう言って足を速めるハボックにロイは思い切り舌打ちする。
(まあいいか。ライブ会場ならいくらでもくっつく機会はあるだろうしな)
 お楽しみはこれからだ!と、ハボックの後について、ロイは勢い込んで建物の中へと入っていったのだった。


2007/12/13


→ その11
その9 ←