親友疑惑  第三章


 会議やら視察やらと飛びまわっていたロイは夕方ようやく帰ってくるとハボックの淹れてくれたコーヒーを飲んでやっと一息ついた。
「今日の夜だが、またヒューズに誘われてるんだ。今夜はお前も一緒に────」
「オレに気を使う必要ないっスから、二人で行って来て下さい」
 まるで怒ったようにキッパリと言うハボックにロイは目を見開く。
「お前、ずっと様子が変だぞ。そう言えば朝、聞き損ねたな。何があった、言え」
「もう嘘つく必要、ないってことっスよ」
「嘘?」
「大佐と中佐、つきあってるんでしょう?」
「……は?」
 ハボックの言葉に顎が外れるほどポカンとしたロイにハボックは言葉を続けた。
「指輪まで贈りあうような仲だったなんて、オレ、全然気づかなかったけど……でももう、中佐の代わりは嫌だから……ッ」
 ハボックはそう言って唇を噛み締める。
「オレは本気で大佐のこと好きだったけど……はは、滑稽だったでしょうね。ただの身代わりでしかないのに有頂天になって。オレがあんまりその気だから言いにくかったんスか?ただの性欲の捌け口だって。でも、もう判ったからっ」
「おい、ハボック、お前何を言って────」
「しらばくれんなよっっ!!」
 ハボックはそう怒鳴るとポケットの中から取り出した写真をロイに投げつけた。
「中佐のことが好きなくせにっ……うそつきっっ!!」
「ハボックっ?!」
 涙を零しながら怒鳴るハボックにロイは手を伸ばそうとして、飛んできたガラス製の灰皿を慌ててよける。間一髪で灰皿をよけたロイが足元に散らばった写真に足を取られてずっこける間に、ハボックは部屋を走り出て行ってしまった。
「一体どういう……」
 呟いたロイが床についた指に触れた写真を手に取る。そこに写る自分とヒューズの姿にロイはぶるぶると唇を震わせた。
「なっ……なんだコレはっっ!!!」
 その気色の悪い写真を握りつぶすとロイは立ち上がって部屋の外へ飛び出る。だがとっくに姿を消してしまったハボックにロイは唇を噛み締めた。
「一体誰がこんなふざけた写真を……っ」
 ギリと唇を噛んでそう唸ったロイは昼間ハボックと一緒にいた男の姿を思い出した。
「あの男、どこかで……」
 さっきは気づかなかったが以前どこかで見かけたような、そう思ってロイは記憶を探る。そうして探り当てた人物にロイは僅かに目を瞠った。
「そうだ、確かイアン……いや、ディアスだ。思い出した。」
 以前何かの会議で同席した年若い尉官を、ロイはコテンパンにこき下ろしたのだ。その尉官の名がディアスと言う名だった。
「あの野郎……」
 こんなくだらん写真を捏造した上、あることないことハボックに吹き込んだに違いない。ロイは部屋の中にとって返すと受話器を掴んだ。内線番号を回すと苛々と足を踏み鳴らす。
「はーい、もしもし〜」
 間延びした緊張感のない声を発する相手にロイは怒鳴りつけた。
「ヒューズっ!!ディアスという男の家はどこだっっ!!!」
『……ロイ?どうしたよ、そんな大声出して……』
「いいから今すぐ教えろっっ」
『まあ待て待て、そんなこと言われたってすぐ判るわけ────』
「司令部ごと燃やすぞ」
 低い声に本気を感じ取って一瞬押し黙ったヒューズはロイに言う。
『五分待ってく────』
「三分だ」
 即座で返ってきた声にヒューズは一呼吸置いて言った。
『判った、一度切るぞ』
 そう言って一度切れた電話がもう一度鳴るまでの間、永遠のように感じていたロイだったが実際にはそれは二分にも満たない時間だった。それでも電話がリンと一つ鳴りきる前に受話器を引っ掴むとロイは無言でヒューズの言葉を待った。
『少尉の関係のディアスと言うと士官学校で同期のテオドール・ディアスだな。ヤツならヴィツマン通りのアパートに住んでる。通りの中ほどの黄色い壁のアパートだ。三階の305号室』
「ありがとう、ヒューズ」
 ロイはそれだけ言うと受話器を置く。眉を顰めるとぼそりと呟いた。
「この落とし前は高くつくからな、ディアス」
 辺りを燃やしかねないような怒りのオーラを身に纏って、ロイは司令部を飛び出していったのだった。


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