| 模造金子 〜 imitation gold 〜 第四章 |
| 仕事を終えて家に帰ってきたロイは家の中へと声をかける。先に帰って来てる筈のハボックが顔を出さないことを訝しみながらリビングの扉を開けたロイは、ソファーの上でうなされているハボックに気がついて慌てて駆け寄った。 「ハボックっ?おいっ、起きろっ!!ハボっ!!」 「ひいっ!!」 悲鳴と共に飛び起きたハボックは覆いかぶさるように自分を覗き込んでいるロイにぎくりと体を強張らせる。目を大きく見開いて息を弾ませるハボックにロイは言った。 「大丈夫か?ハボック。」 そうして落ち着かせようとハボックの腕を擦ろうとしたロイの手をハボックは思い切り振り払ってしまう。 「なっ!?」 「触んないでっ!やだっ…いやだっ!」 「ハボ?!」 ハボックはロイの脇をすり抜けるとリビングを飛び出し階段を駆け上がった。寝室に飛び込むとベッドに潜り込み、小さく体を丸める。ウェインと会ったことで呼び覚まされた過去の記憶が夢となってハボックを苦しめ、ハボックの心は数年前の士官学校の頃へと戻っていた。結局あれからウェインは毎晩のようにハボックを犯した。好きあった者同士のセックスと言うより、ハボックにとってウェインとの行為はレイプに近いものだった。それでも最初は苦痛ばかりだったそれが慣れるにつれ快楽を感じるようになり、イヤだといいながらも感じて啼くハボックの様子はウェインをつけ上がらせた。だが、ハボックの心はどうにも行為についていくことが出来なかった。その後の3ヶ月、誰にも、様子のおかしいハボックを心配してくれたブレダにすら打ち明けることも出来ず、ハボックは身も心もボロボロに傷ついていった。正直、ウェインが卒業して遠い南方に配属になり、自然消滅的に関係が終わりになった時はハボックは心底ホッとしたのだ。ウェインがいなくなってハボックの心も落ち着きを取り戻した。それからハボックも士官学校を卒業し、いろいろあった後ロイの元に配属になり、ロイと付き合い始めて1ヶ月。先を望むロイにどうしても一歩を踏み出せないハボックは、それでも何とか少しずつとは言えロイとの距離を埋めてきた。そうしてあと少しでその手を取れるかもしれないというところまでやってきたというのに。 「怖い…」 ハボックがブランケットを抱え込んで小さく手足を縮めた時、ガチャリと扉が開いてロイが入ってきた。 「ハボック」 ロイの声にブランケットの下の体がびくりと震えたのが判る。ロイは軽く舌打ちするとベッドに近づいていった。 「さっきお前が叫んでいたのはあの男の名前だな?」 ロイはベッドの上のブランケットの塊を見下ろして言う。 「アイツとの間に何があった、言え」 好きだと告げたロイを受け入れてからも、ハボックは体に触れられるのを極端に嫌がった。キスですら最近になってようやくまともに出来るようになったのだ。最初は男同士ということで抵抗があるのかとも思ったが、今回のことでそれだけではないと気づいたロイはその理由を聞きだそうと躍起になっていた。だが、ベッドに潜り込んだまま返事を返そうとしないハボックにロイはムッとするとブランケットを剥ぎ取ってしまう。 「ハボックっ!」 「ごめんなさいっ!!」 ロイの声に弾かれたように顔を上げたハボックの頬が涙で濡れていることに、ロイは目を見開いた。すっかり怯えきってしまったようなハボックにロイはため息をつくと、ベッドに腰を下ろした。 「責めるつもりはない。だから教えろ。何があった?」 だが、ふるふると首を振るばかりのハボックにロイは再び苛々とし始める。乱暴に立ち上がるとハボックに背を向けたまま「もういい」と呟いて部屋を出て行ってしまった。 「…たいさ」 そんなロイにハボックはくしゃりと顔を歪めるとシーツを握り締めたのだった。 「ハボック少尉、これ、少尉にって預かってきたんですけど」 フュリーはそう言うとハボックに小さく折りたたんだ紙片を手渡す。広げて中を確認したハボックは、眉を顰めてフュリーに聞いた。 「どんなヤツだった?」 「背が高くて肌の浅黒い黒髪の人でしたよ。中尉の肩章つけてました」 「そうか…」 ハボックの困惑した様子にフュリーは気遣わしげに声をかける。 「あの、預からない方が良かったですか、それ」 「あ、いや、いいんだ。サンキュー」 心配そうなフュリーにハボックは慌てて笑みを浮かべると、手にした紙片をくしゃりと握り締め近くのゴミ箱へ放り込んだのだった。 夕刻、会議を終えて帰ってきたロイは書類を書いているブレダに声をかけた。 「ブレダ少尉、ちょっといいか?」 「俺もちょうど話したい事があったんで」 ブレダはロイに呼ばれてそう答えるとロイの後について執務室へと入る。扉を閉めた途端、ブレダは口を開いた。 「ハボックのことでしょう?」 「ああ、先に話を聞こう」 そう言われてブレダは少し考えてから話し出す。 「ウェイン先輩なんですけど、やっぱどうもハボックにちょっかいかけてきてるみたいなんですよ。ちょっと様子もおかし かったし、大佐に話そうってハボックに言ったんですけど一人で大丈夫だからって言うばっかりで」 「士官学校で同室だったと言っていたな。何があったか知っているか?」 ロイに聞かれてブレダは首を振った。 「先輩が卒業する前の3ヶ月。アイツ、様子がおかしかったんです。でも何度聞いてもなんでもないって言うだけで、でもそのうちウェイン先輩も卒業してそうしたらハボも落ち着いてきたんで、俺も結局その後は何も聞いてないんですよ。大佐には何か言ってないんですか?」 「いや。昨日も夢でだいぶうなされていてな、理由を聞いたんだが答えなかった」 「そうですか」 ため息をついてブレダは黙り込む。そのまま二人がそれぞれの考えに沈むように沈黙していると、不意に執務室の扉をノックする音が響いた。 「フュリーです、大佐」 「どうした」 ロイの返事に扉を開けて入ってきたフュリーは、ロイとブレダの深刻そうな様子に戸惑ったように立ち止まる。だが、再度ロイに促されて手にした紙片をロイの机の上に置いた。 「別にどうってことないのかもしれないんですけど…」 フュリーは言いにくそうにそう言う。 「どうってことないかどうかは聞いてから判断する。なんだ?」 ロイに促されてフュリーは話し出した。 「今日、中尉の肩章をつけた人にハボック少尉にこれを渡してくれって頼まれたんです」 そう言って机の上の紙片を指差す。 「少尉、それ読んだら凄く困った様子で、ちょっと気になったものですから…」 フュリーの言葉を聞いていたロイは立ち上がると紙片を手に取った。 「ありがとう、フュリー曹長。よく教えてくれた。ブレダ少尉、悪いが今日はもう上がる。中尉が何か言ってきたら…」 「うまい具合に言っておきますよ」 「頼む」 ニッと笑うブレダに頷くと、ロイはフュリーの肩を叩いて執務室を飛び出していく。心配そうな顔をするフュリーにブレダは笑って頷いて見せたのだった。 |
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