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| エフィアルテスの悪夢 第六章 |
| 「くそっ、どこへ行った、ハボック!」 目を離した僅かな時間に外へ出ていってしまったらしいハボックを、ロイは必死の思いで探す。昼間は綺麗な空色だった空が茜に塗り潰されていく様が、ロイの焦りを余計に掻き立てた。 普段のハボックであればこんな場合、きっとあそこで拗ねているだろうとかここで不貞腐れて飲んでいるだろうとか、想像しても苛立ちを感じることはあっても特に不安はないが、あの熱に浮かされたようなハボックがどういった行動をとるか、正直ロイは考えたくもなかった。 「すみませんっ、ちょっと伺いますが」 と、ロイはすれ違う人を捕まえては片っ端から尋ねる。パジャマ姿の金髪の男を見なかったかと何度も繰り返せば、漸く姿を見かけたという女性を見つけた。 「ああ、その人ならその角を曲がって行きましたけど」 と女性は言ってロイを見る。 「あの人、病気か何かなんですか?」 そう気味悪そうに尋ねる声が不安を滲ませていることに気づいてロイは安心させるように笑った。 「高熱で浮かされているだけです。悪い病気でも気が触れてるわけでもありませんからっ」 ロイはそう言って教えてくれたことに礼を言うと、言われた道を走っていく。辺りを見回しながら走るロイの前に緑の生い茂った公園が現れ、ロイは立ち止まって少し考えてから公園の中へと足を向けた。 「ハボック!」 例えここにいたとしても返事があるとは思えなかったが、それでもロイは必死に声を張り上げる。苛々と木々の間や植え込みの陰を見回しながら小走りで歩いていたロイは、ベンチの陰に落ちている見覚えのある布を見つけてギクリとして駆け寄った。 「……パジャマ?」 薄いブルーのそのパジャマは確かにハボックが身につけていたものだ。それが下着ごと脱ぎ捨てられているのを見て、ロイの顔からサーッと血の気が引いた。 「あ、の、馬鹿…ッ!一体どこに…ッ?!」 もしかしたら最悪な事態になっているのかもしれない。 「ハボックっ!!どこだッ?!」 ロイは声を限りに叫んで公園の奥へと走っていった。 熱い。 相変わらず身の内でマグマが煮え滾っている。口内に流れ込んできた青臭い液体を飲み干しても一向に収まる気配のない熱に、ハボックはゆっくりと視線を巡らせた。そうすれば下卑た笑いを浮かべる男達の顔が目に入る。ぼんやりと何か言っている男達を見つめていたハボックは、くしゃりと顔を歪めた。 (大佐じゃ、ない……) 欲しいと差し伸べた手を振り払ってロイは行ってしまった。抱いてと強請った己に困ったような怒ったような顔をして、ロイはなんと言っていただろう。 『それが済んだら一緒に休もう』 宥めるように抱き締めながらそう囁いた。 (それ…?それってなに…?) 熱に霞んだ頭で何とか考えようとする。そのたびに男達の手が肌を這い回ってハボックが考えるのを妨げた。グイと髪を鷲掴まれ男のモノを口にねじ込まれる。そうすれば纏まりかけた思考は霧散して、ハボックはただ甘く鼻を鳴らして与えられたものを懸命にしゃぶり続けた。 「なぁ、こっちに挿れるのも結構いいかもしれねぇぜ?穴は穴だろ?」 男の息の荒い声が聞こえたと思うと指が蕾を這い回る。 「……ぅ、ふぅん…ッ、んぅ…ッ」 快感を覚え込まされた体が反応して声に甘さが滲み、ハボックは無意識に尻を揺らめかせてしまう。途端に色めき立った男達が何か言うのが聞こえて、ぬぷりと指が秘所に潜り込んできた。 「んふぅ……んっんっ」 思わず声を漏らせば乱暴に喉奥へ楔を突き入れられる。 「ングゥッ!…グゥっ!」 息苦しさに霞んでいた意識が一瞬戻ってハボックは己を見下ろす男の欲望に歪んだ顔を見上げた。 (……たいさじゃ、ない) 己が欲しいのはロイだ。ロイの熱だけが躯を焼き付くそうとするマグマを沈めることが出来るのだ。 ハボックはむずかるように首を振ると口内を犯す楔を舌で押し出す。もう一度唇を犯そうと追いかけてくる楔を嫌がって首を振ったその瞬間、蕾に押しつけられた熱い塊にビクンと躯を跳ね上げた。 「さあ、両方の口にたっぷり注いでやるからな。思う存分楽しみなッ!!」 そう声が聞こえたと思うと腰を抱えた男が蕾に熱い塊を押しつけてくる。唇に押しつけられる楔をいやいやとよけながら、ハボックは本当に欲しい相手を呼んだ。 「ハボックっ!!」 ロイは手当たり次第に植え込みの中に分け入り声を張り上げる。その時、己を呼ぶ切ない声が聞こえて、ロイは弾かれたように声がする方へと走った。さわさわと風に揺れる枝を跳ね退けて飛び込んだロイは、二人の男に組み敷かれるハボックの姿に息を飲んだ。 「……ッッ、き、さまァ!!」 目の前が怒りで真っ赤に染まり、ロイは今まさにハボックを貫こうとしている男に掴みかかる。 「な…っ?誰だっ、てめぇ───」 ギョッとした男が言い終わるのを待たず、ロイが男の顎を思い切り殴れば男の躯が近くの植え込みの中へ吹き飛んだ。 「グハッ!!」 バキバキと枝を鳴らして突っ込んだ男にはそれ以上見向きもせず、ロイはもう一人の男を睨む。あっと言う間に仲間が殴り飛ばされて呆然とする男の胸倉を掴んで立たせると、ロイは男の腹めがけて思い切り拳を打ち込んだ。 「ガハッ!!」 身を二つに折るようにして吹き飛んだ男は、地面に倒れたきりピクリとも動かない。ロイは殴り倒した男達をそのままに、芝生に蹲るハボックに駆け寄った。 「ハボックっ!!」 グイと引き起こしてその顔を覗き込む。涙に頬を濡らしたハボックの口元を汚すものに気がついて、ロイは顔を歪めた。 「くそッ、よくも…ッ」 ギリと唇を噛み締めてハボックを抱き締めようとすれば、ハボックが弱々しくもがいて腕を突っぱねた。 「や、あ……ッ、たいさぁ…ッ」 「ハボックっ、私だ、もう大丈夫だからッ」 「ヤダ…た…さ…ッ」 「ハボック!」 抱き締めようとするロイの手をハボックが力の入らない手で振り払おうとする。ロイは覗き込んだハボックの瞳が、焦点を失って紗がかかったようにぼんやりと霞んでいる事に気づいて目を見張った。 「ハボック?おい、私が判らないのかっ?」 「や……たいさァ…」 弱々しくもがくハボックの瞳に新たな涙が盛り上がりポロポロと零れて落ちる。そんなハボックの様子に息を飲んだロイは、グッと唇を噛み締めると剥ぎ取られたパジャマを着せた。震えるハボックの躯を抱き上げ、ロイは公園を飛び出し一直線に家へと向かった。 家に着くとロイはすぐさまハボックを浴室へと運び込む。おざなりに着せていたパジャマを脱がせ、その躯に柔らかく出したシャワーを浴びせた。 「アッ!」 熱に浮かされた躯にはシャワーの滴すら辛いのだろう。大きく体を震わせるハボックに、ロイは顔を歪めながらもハボックの躯を丁寧に清めていった。脚の間に手を差し込めば嫌がってもがく躯を押さえつけるようにして確かめる。 「やあっ、いやあ…ッ!」 「ハボック、ちょっと我慢してくれ…ッ」 ヒィヒィと掠れた声を上げて逃げようとする躯を押さえて最悪の事だけは避けられた事を確かめて、ロイはホッと息をつく。自分も全身ずぶ濡れになりながらハボックの躯を洗ったロイは、泣きじゃくって震える躯をタオルに包み込んで浴室を出ると寝室へ急いだ。ハボックの躯をベッドに下ろし、ハアと息を吐き出して濡れた髪をかき上げる。医者を呼ぶべきか逡巡するロイの耳に電話のベルが響き、ロイは手を伸ばして受話器を取った。 「はい」 『大佐、よかった、ホークアイです』 「中尉?」 珍しく焦りを滲ませたホークアイの声が受話器から飛び出してロイは目を瞠る。 「どうした?」 ハボックの躯をブランケットで覆いながら尋ねればホークアイが答えた。 『キメラの解剖結果が出ました』 その言葉にロイは僅かに目を見開いて先を促す。 『キメラの体液から強い催淫効果が検出されました。持続性もあります。もし、その体液を体内に取り込んだ場合、多少の洗浄では効果は変わりません』 「強い催淫効果?持続性が?」 そう繰り返しながらロイはベッドに横たわるハボックを見る。 “ヤダっ、抱いてよッ” どんなに宥めすかしても強請って縋りついてきたハボック。それが自分ではどうすることも出来ない熱に煽られての事ならばどれほど辛かった事だろう。 「それで、対処方法は?何か解毒剤のようなものは作れるのか?」 『いえ……今のところは時間が解決するのを待つしか』 申し訳なさそうに答えるホークアイにロイはうっすらと笑みを浮かべる。 「そうか、判った。知らせてくれてありがとう、中尉」 そう言ってロイは受話器を置くとベッドに歩み寄った。 「ハボック」 囁いてそっと髪を撫でればハボックがうっすらと目を開ける。髪を撫でているのがロイだと判らないかのように呟いた。 「たいさ……熱い…助けて…ッ」 ずっと助けを求めていたのに目に見える事ばかりが気になって気づいてやれなかった。 「すまなかった、ハボック」 ロイはそう囁くとロイを求めて伸ばされた手を取って指先にそっと口づけた。 |
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