抱かれる視線  第三章


 次のショウの日がやってきて、小部屋で待機していたハボックの目の前に先日のショウの後で送られてきたものが置かれた。泣き出しそうな顔でソレを見つめるハボックに男は言った。
「今日、ソレを届けてきたお客様が来る事になっています。3番のブースにご案内する予定ですから、そのつもりで」
 それだけ言うと小部屋を出て行こうとする男をハボックは呼び止めた。
「どうしても、使わないとダメなのか?」
「この間も言ったでしょう。追加料金を頂いているんですよ」
「でも…っ」
「とにかく渡しましたからね、ちゃんと使って下さいよ」
 そう言うと男は出て行ってしまう。ハボックは目の前のソレをみつめて途方に暮れていた。

 時間が来てハボックは仕方なしに張型を手に部屋に入った。こんなものを送りつけてくる奴の気が知れない。ハボックはとりあえずベッドにそれを放り投げると、それから一番離れたベッドサイドに腰を下ろした。ショウの時間は決まっている。始めるならとっとと始めないと時間が足りなくなってしまうだろう。ハボックは暫く何もせずにじっとしていたが、立ち上がるとベッドの上からそれを取り上げた。3番のブースがある辺りの壁際に来ると、見せ付けるようにして張型に舌を這わせ始める。それと同時にズボンの中に手を突っ込んで、自身を慰めだした。どう使えと指示されたわけではないのだから、これだけで赦してもらえないだろうか。そう考えながら張型を咥えたハボックは、突然張型の先端から噴き出した液体を飲み込んでしまった。けほっと軽く咳き込んで一度口を離すと、ハボックは手にしたそれを見つめた。甘くとろりとした液体は決して不味くはないが、酷く濃厚で喉に張り付くようだ。ハボックは迷った末、もう一度張型を口にした。その時。どくん、と心臓が不規則な脈を刻む。
「…え?」
 ハボックは目を見開いて張型を見つめた。どくんと心臓が鳴るたび、ずくんと体が熱を帯びる。瞬く間に全身を熱で支配されて、ハボックは張型を取り落とした。
「あ…あ…」
 がくがくと震える体を両腕でかき抱いてハボックは蹲った。体が燃えるように熱くて仕方がない。ハボック自身はすっかり育ちきって、ジーンズの布地の中で窮屈そうだ。ハボックはジーンズを脱ぎ捨てると夢中で自身を慰め始めた。
「あっ…あんっ…あっ、はあっ」
 あっという間に登りつめて吐き出して尚、止まらない熱にハボックは何も考えられなくなっていく。体の奥をめちゃくちゃにかき回して欲しくて、ハボックは震える手で床に落ちた張型を拾い上げた。自身を扱きながら奥まった蕾へと張型を宛がう。まだ解してもいない蕾を張型で割り開くと、強引に中へと沈めていった。
「あっあっあああっっ」
 引き裂かれる痛みとそれを上回る快感にハボックは何も判らなくなっていく。何度も熱を吐き出しながら、ハボックはあられもない声を上げて快楽に溺れていった。

 気がついたときにはハボックは小部屋のソファーに横たえられていた。体を起こそうとして下半身を襲う鈍痛に一瞬身を強張らせる。その時、扉が開いて男が部屋に入ってきた。ハボックが目を覚ましたのに気づいて声をかける。
「具合はどうです?痛みますか?」
「少し…」
 男は舌打ちするとハボックの顎に手をかけて空色の瞳を覗きこんだ。
「催淫剤が仕込んであったんです。きちんと調べなかったこちらのミスですが…。あの客は金輪際出入り禁止にしましたよ」
 男はそう言うとハボックから手を離した。
「傷が治るまでは安静にしていてください」
 まったく、とんだ損失だ、と呟く男をハボックはぼんやりと見つめていた。

 長期の出張からようやく戻ってきたロイはコートを脱ぎながらハボックを見つめた。出張の都合上、ハボックを置いての出張になってしまったのだが、出かける前からハボックに感じていた違和感が久しぶりに会って更に強くなっている事にロイは気がついた。出張前から何か変だとは思っていたのだが、それを確かめる時間もないままにハボックを置いて出てしまったのだ。
「ハボック?」
 ロイに呼ばれてびくりと体を震わせるハボックの顔色は酷く悪かった。そんなハボックを見つめて、違和感をそのままに出張にでてしまったことをロイは酷く後悔する。
「顔色が悪いな。どこか具合でも…」
「なんともありません」
 即座に否定するハボックはとてもなんともないと言える状態とは思えない。心配して伸ばした手を思い切りはね退けられてロイは目を瞠った。撥ね退けたハボック自身も驚いてロイを見つめている。ハボックは唇を震わせると決まり悪そうに目を逸らして「すみません」と呟いた。それからロイの目を見ずに「やっぱり気分が悪いので先に休ませて下さい」と言うとソファーから立ち上がり、ロイの言葉を待たずに2階へと上がってしまった。

『詳しいことは判らないんですが』
 と、電話の相手はロイに言った。
『歓楽街に「Q」という会員制の店があるんですが、そこにハボック少尉に良く似た人間がいるって言うんです』
「Q?」
『ええ、要はのぞき部屋なんですがね。会員制になっていて店員も上物を揃えているとかで、人気のある店員の ショウにはとんでもない値段をつけてるらしいんですよ。財界やら政界やらの大物も会員になってるそうで』
 ロイは暫く考えていたが口を開くと言った。
「そこの会員になるにはどうしたらいい?」
『手っ取り早いのは会員に紹介してもらうことですね。何人か目星をつけておきましたけど』
「さすがだな」
『すぐに手配しますか?』
「頼む」
『わかりました。準備が出来次第また連絡します』
 電話を切ってロイは机の上に肘をついて組んだ手の上に顎を乗せる。もし、その「Q」という店にハボックがいたとしてどうするというのだろう。大体、一体どうしてハボックがそんなところに出入りすることになったのか皆目検討がつかない。そんな店とは一番縁のなさそうな男なのに。ロイはため息をつくと目蓋を閉じてハボックに想いを馳せた。

「どうぞ、こちらです」
 サングラスを掛けたロイを若い男がブースへと案内した。ロイは宛がわれた個室に入ると中から鍵をかけてソファーに腰かける。マジックミラーになっている正面の壁からは部屋の様子がよく見えた。八角形の部屋の中央には大きなベッドとソファーが置いてあり、壁際には作り付けの戸棚があって酒やグラスが並んでいる。部屋の片隅にはガラスの壁に囲まれたシャワールームが備え付けてあった。八角形の部屋であることから今、ロイがいるのと同じ部屋があと7つはあるものと思われる。1回のショウで8人。出演する店員の人気が高ければ高いほど競争率は上がり、当然一回あたりのショウの金額は高くなる。実際ロイも今日ここに入るに当たって、普通にここを借りる3倍の金額を払って無理矢理ブースを借りたのだ。
 やがて、ムーディな曲が流れ照明が少し落ちた。ロイはすわり心地がいいようにソファーに背を凭れかけると脚を組む。
 その時。
 ロイの丁度正面の扉が開いて一人の男が部屋の中に入ってきた。金色の髪に空色の瞳のその男を見て、ロイは息を飲んだ。
「ハボック…」
 ハボックはスタスタと部屋の片隅までくるとゆっくりと服を脱ぎだす。よく鍛えられた均整の取れた体が惜しげもなく晒される事に、ロイは眩暈を覚えた。ハボックはシャワーブースの中に入るとシャワーを浴びだした。腕を上げてシャワーの滴を浴びるだけの仕草に酷く煽られる事にロイは驚いた。裸の胸を、腹を、背中を、尻を、流れる滴の一滴一滴を目が追ってしまう。ハボックは適当な所でシャワーを止めると、備え付けてあるタオルで簡単に体を拭いた。素肌にジーンズをつけるとジッパーを上げもせず部屋へと出てくる。中途半端に覗く様子が、全て曝け出されている時より更にイヤらしく感じた。ハボックは金色の滴をぽたぽた垂らしながら戸棚からグラスを取り出し、琥珀色の酒を注ぐ。グラスに口を付けながら上目遣いに見上げるハボックの瞳が、壁を通り越して自分を見つめているようにロイは感じた。ハボックは手を伸ばすとロイが見つめる壁に酒を垂らし、流れる滴を指で辿る。そして次に壁に顔を寄せると、指で辿った後を舌先で辿り始めた。辛そうに瞳を伏せてピンク色の舌を這わせるハボックを見つめる内、ロイの心にふつふつと怒りが湧き上がってくる。こんな姿を自分以外の男に曝しているのだと思うと、ロイは怒りに任せて目の前の壁を思いっきり拳で殴りつけた。
 バンッ!!という音に、ハボックがビクッと体を震わせて壁から顔を離した。目を見開いて呆然とこちらを見つめる姿にロイはちっと舌打ちすると、部屋の中に備え付けてある電話を手にした。相手が出た途端、搾り出すようにロイは言った。
「言い値を払う。私を中へ入れろ」
 ロイの言葉になにやら言い返す相手にロイは怒鳴った。
「早くしろッ!!」
 ロイはそう言って受話器を叩きつけると立ち上がってブースの外へ出た。若い男と共に走り寄ってくる男を、ロイは射抜くような視線で見つめていた。


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