| 辿り着くはパナケイアの空 第五十三章 |
| 今度こそ司令室にたどり着いて大佐は扉に手を伸ばす。ガチャリと開いて大佐とオレが足を踏み入れた途端、中にいた人達がガタガタと立ち上がった。 「マスタング大佐」 ざわつく司令室の中、凛とした声が大佐を呼ぶ。歩み寄ってきた中尉が大佐をじっと見上げたと思うと、普段は決して見せないような優しい顔で笑った。 「お帰りをお待ちしておりました」 「……長いこと留守にしてすまなかった」 珍しく言葉を探した大佐は、結局短くそれだけ言う。それに頷いて、中尉は大部屋の奥の執務室を視線で指した。 「ヒューズ中佐がお待ちかねです」 「…………怒っている、だろうな?」 「ええ、とっても」 叱られるのを恐れる子供のような大佐の顔に中尉がクスリと笑って答える。大佐は困ったようにポリポリとこめかみを掻くとオレを見た。 「ハボック、お前、先に入れ」 「はあっ?なんでオレ?」 「いいから!私を連れて帰ってこいと言われてたんだろう?」 「ちょ……たいさっ」 大佐はオレの腕を掴んで強引に扉の前に立たせる。「ほら」と後ろからつついてくる大佐を肩越しに睨んだオレは、仕方なしに扉をノックした。 「ハボック少尉、入ります」 そう中に声をかけて扉を開けようとしたオレは掴んだノブごと中に引っ張り込まれた。 「うわ……っ」 「ロイッ!!」 中から凄い勢いで扉を開けた中佐は、オレを突き飛ばすようにして大佐に飛びつく。大佐の腕を両手でガシッと掴んで、中佐は髭面を寄せるようにして大佐の顔を覗き込んだ。 「お前ッ、俺がどれだけ心配したと……ッッ!!」 「……すまん、ヒューズ」 電話でも散々言っただろうに中佐は眼鏡の奥の目を吊り上げて言う。それでも大佐の顔を直接見て安心したのか、それ以上は言わずに大佐の肩に手を置いて大きく息を吐き出した。 「無事でよかった、本当に……」 「心配かけたな」 「まったくだ」 中佐はそう言うと漸くいつもの笑みを浮かべる。大佐の肩を叩いて執務室の中へと促しながら、中佐はオレにコーヒーを持ってくるように言った。 「アイ・サー」 オレは答えて給湯室でコーヒーを淹れる。カップを載せたトレイを手に戻ってくると軽くノックして扉を開けた。 「コーヒーっス」 テーブルを挟んでソファーに座る二人の前にオレはコーヒーのカップを置く。そのまま一礼して部屋を出ようとすれば中佐の声がオレを引き留めた。 「ご苦労だったな、少尉」 その声に振り向いて中佐を見れば、笑みを浮かべた常盤色がオレを見ている。満足げなその色に、オレはちゃんとなすべき事を出来たのだと確信した。 「あともう一踏ん張り頼むぞ」 「イエッサー!」 ニヤリと笑う顔にオレも笑って敬礼を返す。中佐はコーヒーを啜りながらオレに中尉を呼ぶように言った。 「中尉、中佐が呼んでます」 「そう、ありがとう」 大部屋で書類をめくっている中尉にそう言えば、中尉はオレと入れ替わりに執務室に入っていった。 「やれやれ……」 その背を見送ってオレは自席に腰を下ろす。背もたれが不満の声を上げるのにも構わず体重を預けて息を吐き出せば、目の前にコーヒーのカップが差し出された。 「おつかれ」 「ブレダ」 カップを持つ手の主を見上げるとブレダがオレを見下ろしている。ありがたくカップを受け取ってコーヒーを飲めば微かな甘みが疲れた細胞に行き渡るような気がした。 「砂糖入ってる」 「疲れてるときは糖分がいいんだよ」 「うん、元気でた」 ありがとう、と言えばブレダがボリボリと頭を掻いて隣の椅子に腰を下ろした。 「さっきは車、ありがとうな」 「マクレーンとは話ついたのか?」 「うん、ばっちり」 「そうか」 オレの言葉に頷いたブレダは指先で机を叩く。タイミングを計るように叩いていたと思うと、ブレダは口を開いて言った。 「さっき大佐にも言ったけどさ、お前が大佐探して吹っ飛んで行っちまってから俺たちも俺たちなりに色々と考えたわけよ」 そう言うブレダの声に俯けていた顔を上げればいつの間にかファルマンやフュリーが側にきている。尋ねるようにみんなの顔を見回すオレにブレダが続けた。 「お前はさ、ちゃんと大佐の事見てきたんだろ?だったら俺らに教えてくれ。大佐がどんな人でどんな事を考えてるのか。そうしたら今からでも力になれるだろう?」 「ブレダ……ファルマン……フュリー……」 ブレダの言葉にファルマン達も笑って頷く。それを見ればなんだか鼻の奥がツンとして、オレは誤魔化すようにコーヒーを啜った。 「よかった、大佐も喜ぶよ、きっと」 オレはそう言うと、次の行動を起こすまでの短い時間、少しでも大佐の事を知って貰おうとこれまでのことを話して聞かせた。 |
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