辿り着くはパナケイアの空  第五十一章


「俺が軍の奴に援助を受けてたって話はできますけど、それでマスタング大佐がはめられたって証明にはならないんじゃないのかな?」
 大佐と二人、小一時間も話したところで、大佐がはめられたという事を証言して欲しいと頼めばマクレーンが言う。オレは少し考えてからマクレーンに尋ねた。
「あんたのところに来てた男、どんな奴だった?」
「待て。写真がある」
「えっ?」
 言って立ち上がるマクレーンにオレと大佐が顔を見合わせる。
「写真を撮ってあるのか?」
 驚いて尋ねる大佐に手帳を手に戻ってきたマクレーンがパラパラとページをめくりながら答えた。
「用心の為にこっそり撮ってあるんだ。あんたのもあるぜ、ハボック少尉」
 マクレーンはニヤリと笑って言う。いつの間に撮ったんだと思いながらマクレーンが手帳の間から取り出した写真を受け取った。
「ジェンナー少佐っス」
「ああ」
 写真の中でマクレーンと話しているのは、帽子を目深に被っているものの確かにジェンナー少佐だった。
「ジェンナー少佐自ら来てたんスね」
「下手な人間には任せられないと思ったんだろう。だが、かえってその用心深さが徒になったな」
 オレの言葉に大佐が頷く。ハリソン大佐直属の部下がロイ・マスタングの部下を名乗って来ていたのであれば、その行動の裏にあるものを考えない訳にはいかなかった。
「別にハリソン大佐が仕組んだとまで言えなくても構わん。とりあえず私の軍への反逆の嫌疑が晴れればいい」
「大佐、そんなこと言うけどハリソン大佐をそのままにしたらまた同じ事が起こるっスよ?」
 こうまでして大佐をどうにかしようとしているんだ。芋蔓式にハリソン大佐まで捜査の手を伸ばせるならその方がいいに決まってる。
「ハリソンがそこまでしようとしているというのがもう判ってるんだ。用心も対処も出来るだろう?」
「でもっ」
 何でもない事のように大佐は言うけど、実際にそんな簡単に済むものだろうか。危険な芽は出来るだけ早くに摘んでしまいたいと言うオレに大佐が笑った。
「私に何か起きないよう、護ってくれるのがお前の役目じゃないのか?少尉」
 言って楽しそうに見つめてくる大佐にオレは唇を尖らせる。そりゃ確かに護衛はオレの役目だけど、だからこそ危険を回避出来る方法があるならそれを取りたいと思うのが普通だろう?
「怒るな。まずは私の嫌疑を晴らすのが先だ。他のことは後回しだ」
 と言って大佐は続ける。
「それにそうして一区切りつけないとヒューズの奴が煩いだろうからな」
 確かに言われてみればそうだ。今は大佐の軍での立場を取り戻す必要があった。
「じゃあ、その時が来たら証言して貰えるか?」
「ああ、ただし」
「君の身の安全は約束するよ」
 マクレーンの言葉を受けて大佐が言う。それにマクレーンが頷くと大佐が手を差し出した。
「協力に感謝する。今日は色々話が出来てよかった」
「俺もあなたと話の話が聞けてよかったです。是非またこんな席を設けてください」
「約束しよう」
 ギュッと握手を交わして大佐が立ち上がる。部屋の出口まで行ったところで大佐が振り向いた。
「時にマクレーン、ハボックを撮った写真なんだが」
「はい?」
 突然そんな事を言い出す大佐にマクレーンが首を傾げる。
「返して貰えないかな?もう、今更用心の為には必要ないだろう?」
「構いませんけど」
 マクレーンは答えて手帳からオレの写真を取り出して大佐に渡す。データは?と大佐が尋ねると、マクレーンは部屋の外を指さした。
「データ管理はコリンズが」
 そう言ってマクレーンはオレ達と一緒に店まで出てくると、カウンターの中に座っていた男に声をかける。
「コリンズ、ハボック少尉の写真データをマスタング大佐に渡してくれ」
 男は長めの黒髪をかき上げてマクレーンを見つめたが、なにも言わずにデータチップを大佐の手の中に落とした。
「ありがとう」
 大佐は礼を言ってマクレーンに軽く頷くと店の外へ出る。やれやれと肩の力を抜いて、オレは大佐を見た。
「写真なんて別に返してもらわなくてもよかったんじゃないっスか?」
 マクレーンの性格であれば悪用するとも思えない。オレがそう言えば大佐が思いきり顔を顰めた。
「私以外の誰かがお前の写真を持っているなんて許せんからな」
「はあ?」
 そんな思いもしなかった事を言われてオレは呆気にとられて大佐を見る。そんなオレを見て、大佐は言った。
「それにあのバーの男、お前に気があったぞ」
「はあっ?アンタなに言い出すんスか?」
 訳判んねぇと言うオレに大佐はため息をつく。
「まあ、その鈍感なところがかえって妙な奴らに手を出させん理由かもしれんがな」
「益々訳判んないっスよ、大佐」
 そう答えるオレに大佐は盛大なため息をついて、発火布をはめた手の中のデータチップを燃やしてしまった。


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