辿り着くはパナケイアの空  第五十章


「ここのはず……なんスけど」
 オレは住所を頼りにたどり着いた場所を見上げる。古い建物が並ぶ一角、オレの前にはなにやら怪しげな看板がぶら下がっていた。
「ボーイズ・バー・アエトス……って、なにコレ」
 マクレーンに貰った番号にかけて、出たのはマクレーン本人だった。大佐を連れていくと言えば是非会いたいと言っていたし、そうであればデタラメの場所を教えたとは思えない。
「前のバーみたく中が隠れ家になってんのかな……」
 それともオレが住所を聞き間違えたのだろうか。流石にちょっと入るのを躊躇ってるオレに大佐が言った。
「ここなのか?」
「住所はここっスけど……もしかして間違いだったかもしれないっス。もう一度連絡取ってみますから」
 オレは近くに電話がないか、探しにいこうとする。だが、大佐はオレの腕を掴んで引き留めた。
「住所はあってるんだろう?だったらとりあえず入ってみよう」
「ええっ?」
 だってボーイズ・バーって言ったらその手の店じゃないのか?そこに男の二人連れで入ったらいかにもじゃないか。
「別に構わんだろう?そう思われたところで何か問題があるのか?」
「や、でも、そのっ……、ちょっ……大佐っ?」
 大佐は躊躇うオレをおいてさっさと店に入ってしまう。そのまま放っておくわけにもいかなくて、オレは大佐を追って店に入った。
「珍しい、一度に二人もお客さんなんて」
 薄暗い店内は意外にも小綺麗で怪しげな感じはしない。声のした方を見れば、カウンターにもたれるようにしてちょっと気だるげな雰囲気のイイ男が立っていた。うっすらと笑みを浮かべた男は、長めの黒髪をかき上げて言った。
「どんなタイプが好み?」
 そう聞かれてオレが場所を間違えたと答えるより早く大佐が口を開いた。
「ピュアな学生運動家」
「ちょ……ッ、たい───」
 大佐、と呼ぼうとして思いとどまる。グイと腕を引いて外へ出ようと促すオレに構わず、大佐は続けた。
「マクレーンに会いたい」
 そう言う大佐を男は笑みを消してじっと見つめる。男と大佐の間に立って男の反応を伺えば、男は少しして口を開いた。
「アンタは?」
「ロイ・マスタングだ」
 大佐が名乗った名を聞いた男は大佐とオレをジロジロと見つめたが、やがて“待っていろ”と言って姿を消す。少しして奥から出てくるとこっちだと手招いた。
「どうやら間違ってはいなかったようだな」
「まだ判んないっしょ、簡単に名乗っちゃって」
 男についていきながらそんなことを言う大佐をオレは睨む。名乗るならオレの名を言ってくれればいいのにと言えば大佐がクスリと笑うから、文句を言おうとした時、小さな扉にたどり着いた。
「マクレーン、お客さん」
 扉を開けた男はそう言ってオレたちを中へと促す。促されるまま中へと入れば、マクレーンが椅子から立ち上がった。
「マクレーン、マスタング大佐だ。大佐、彼がマクレーンっス」
 オレがそう言えば大佐は笑って手を差し出す。マクレーンはその手を握り返して言った。
「初めまして、マスタング大佐。……そうか、貴方がマスタング大佐か」
 マクレーンはどこか納得したように大佐を見つめる。大佐は楽しそうに目を細めて答えた。
「よろしく。会うのを楽しみにしていた」
「俺と?俺は反体制派ですよ?」
 マクレーンはそう言いながらオレたちに座るよう促す。マクレーンの向かいに腰を下ろした大佐の脇になにも言わずに立つオレを、大佐はやれやれと言った顔で見上げたが、口に出してはないも言わずにマクレーンに向き直った。
「色んな考えの人間がいて当たり前だろう?誰もが皆同じ事だけを信じていたら国は良くならないよ」
 大佐がそう言えば驚いたように目を瞠ったマクレーンは嬉しそうに顔を輝かせる。
「以前、俺達のところに貴方の使いだと言ってやってきた男とは全然違う。貴方とは意義のある話が出来そうだ」
 楽しそうに言って身を乗り出すように話し出すマクレーンとそれに答える大佐の会話を聞きながら、オレは内心ホッとしていた。


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