| 辿り着くはパナケイアの空 第四十九章 |
| 「お待たせしました、大佐」 「連絡はついたのか?」 「ええ、待っているそうっス」 電話でマクレーンと連絡を取って、ブレダと一緒に待っている大佐のところに戻ってくる。「行きましょう」と運転席の方へ回れば、ブレダが大佐のために車の扉を開けた。 「お気をつけて、大佐」 「ああ、ヒューズと中尉によろしく頼むと伝えてくれ」 大佐の言葉に頷いて、ブレダが車から離れる。オレを見てニッと笑うブレダに片手を上げて答えるとオレはアクセルを踏み込んだ。 「後ろに乗って欲しかったんスけど」 何故だかちゃっかり助手席に座っている大佐にオレは言う。チラリと不満げな視線を投げれば大佐が笑っているのが判った。 「後ろじゃ話がしづらいだろう?それにお前の顔も見えんしな」 「……オレの顔は見なくていいっス」 そんな風に言われるとやたらと大佐の視線が気になる。何故だが頬が熱くなればそれに気づいたらしい大佐がニヤニヤと笑った。 「大佐」 ジロリと睨むと大佐は肩を竦めて正面に視線をやる。視線が逸れた事でホッとしながらハンドルを握っていれば、大佐の声が聞こえた。 「マクレーンというのはどういう男なんだ?」 「そうっスね……」 聞かれてオレはマクレーンの姿を思い浮かべる。 「強い信念を持った真っ直ぐな男っスよ。頭もよくて弁も立つ。なによりこのアメストリスをより良い国にしたいと強く思ってる」 「それなら私とそう変わらんな」 そんな事を大佐が言うから運転中にもかかわらず思わず大佐の顔をじっと見つめてしまう。危ないぞと言われて漸く顔を正面に戻す程見つめれば、大佐が不満そうに言った。 「なんだ、異論があるのか?」 「や、別にないっスけど」 確かに言葉にすれば大佐もそう言った人物なのだとは思う。でも、マクレーンの方が悪く言えば青臭く、よく言えばピュアな気がした。 「どうせ私は薄汚れた大人だ」 「そう言う訳じゃ……」 フンと不貞腐れたように言う大佐に苦笑する。大佐は窓に肘をついて外を見ながら言った。 「それで?ピュアな学生運動家をハリソンが利用したというのか?」 「そう言うことになるっスね」 答えてオレは以前から疑問に思っていた事を口にした。 「ハリソン大佐はどうしてここまで大佐を、その……」 「憎んでいるのか、か?」 何となく言いづらくて濁した言葉を大佐がはっきりと口にする。なにも言わずにいればそれを肯定ととった大佐が言った。 「さあな、私は神じゃないから人の心は読めんよ」 本当に判らないのか、それとも言いたくないのか、大佐はそう答える。 「少なくとも言えるのは彼は錬金術を憎んでいると言うことだ」 「錬金術を憎んで……」 確かに以前話をした時もハリソン大佐は錬金術の事を悪魔の技だと言っていた。もしかして大佐と会う前に錬金術に絡んで何かあったのかもしれない。 「だからって大佐にあたるのは違うんじゃないっスか?大佐の焔はあんなに綺麗なのに」 オレが不満げに言えば大佐がクスリと笑う。 「そう言う風に思うお前は変わっていると思うがな」 「別に変わってないっス」 だって大佐の焔が綺麗なのは本当のことだもの。オレがムスッとして黙り込めば大佐の手が伸びてきてオレの髪をくしゃりと掻き混ぜた。 「……もうすぐっス」 その手の温かさと擽ったさに首を竦めてオレはハンドルを切る。路地の手前で車を止めると、車のキーを抜きながら言った。 「ここからは歩きで」 「ああ」 オレの言葉に頷いて大佐が扉に手を伸ばす。それを止めようと名を呼んだけど、大佐は構わず扉を開けてさっさと車から降りてしまった。 「あのねぇ、一応アンタ、今微妙な立場なんスから。なにがあるか判んないんだし、勝手に車降りちゃわないで下さいよ」 万が一にもここにハリソン大佐の手の者がいたらどうするのだ。目を吊り上げてそう言えば、大佐はちっとも悪いと思ってない顔で「すまん」と言った。 「……こっちっス」 オレは一つため息をついて大佐を促す。古い建物が立ち並ぶ狭くて入り組んだ路地を奥へと進むオレの後について歩きながら大佐が言った。 「会うのが楽しみだ」 「大佐」 その言葉に振り向けば楽しげな大佐と目が合う。 「はい」 大佐と会えばマクレーンはきっと力を貸してくれるに違いない。 力強い黒曜石の輝きに、オレはそう確信してマクレーンが待つ場所へと向かった。 |
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