| 辿り着くはパナケイアの空 第三十七章 |
| マクレーンと約束を取り付けたものの、まず大佐を見つけださない事には始まらない。それもハリソン大佐が大佐を見つけだす前に。 今回の騒動で前線にいて一番大佐に近い立場にあったオレの身柄をハリソン大佐は拘束しようとしていたようだ。だが、彼の力が及ぶ前にヒューズ中佐が手を回して、オレの安全と自由を確保していてくれた。とはいえ、それは決してオレのためなんかではなく彼の大切な友人の為でしかない。もしオレが大佐を連れ戻して彼の無実を証明できなければ、中佐は迷わずオレを切って捨てるだろう。 「クソ……ッ、どこにいるんだよ……」 一日中寝る間も惜しんでオレは大佐の行方を探す。だが、幾ら探しても大佐の行方は杳として知れず、日が経つにつれオレの中で焦りが膨れ上がっていった。 『ロイの行方はまだ判らないのか?』 電話の向こうで中佐が苛々として言う。受話器を通してその焦りがはっきりと伝わってきて、オレの不安を煽った。 「ここはと思うところは片っ端から当たってるんスけど、どこにも大佐、いなくて……ッ」 オレは不安を押し殺して現状を伝える。 「中佐、どっか大佐の思い出の場所とか、付き合いのある相手とか知らないっスか?」 もしかしたらオレの知らない情報を持ってやしないかと、オレは縋る思いで中佐に尋ねる。だが、返ってきたのは期待したのとはかけ離れたものだった。 『今じゃアイツと付き合いがあるのは俺くらいなもんだろうよ。思い出の場所ったって……アイツの故郷はもうないからな』 「……そうっスか」 落胆を隠さずオレはため息を零す。このまま大佐が見つからなかったら、いや先にハリソン大佐が大佐を見つけてしまったらどうしよう。不安に押し潰されそうになって黙り込んでいれば受話器の向こうから声が聞こえた。 『ロイを必ず連れ戻すと言ったのは嘘か?』 「中佐」 『濡れ衣を晴らすと言ったのは口から出任せか?このままじゃ遠からずお前を八つ裂きにする事になりそうだな、少尉』 低く囁くような声にオレは目を見開く。ギュッと手を握り締め、受話器を持ち直してオレは中佐に言った。 「まだ時間あるっしょ?そんな事言うのは本当に時間切れになってからにしてくださいよ」 そう言い切ってオレは受話器を置く。本当はもう何処を捜せばいいのか皆目見当がつかなかったけれど、立ち止まってしまったらそこから一歩も動けなくなりそうでオレは当てもなくイーストシティの街を歩き回った。 「ここも、ダメ」 オレは以前大佐が錬金術の古い研究書を見つけだしたと言う民間の学術研究所を後にしてそう呟く。大佐が軍所属の国家錬金術師だと判るまでは、大佐と錬金術について熱論を交わしあったという研究員は大佐の行方についてなんの情報も持ってはいなかった。 貴重な書物を見つけた時、大佐は何と言っていたかと思い出そうとしてオレは、たった一つの言葉以外頭の中から消え去っていることに気づいた。 『お前も私を拒むのか』 そう言った大佐の表情が忘れられない。怒りでも驚愕でもない、そこにあるのはただ深い哀しみだけだった。 (オレが大佐を拒むはず、ないのに) 例えそれがオレの息の根を止める死の刃だったとしても、大佐がオレにくれるならオレは拒んだりしないのに。オレはとぼとぼと歩きながら大佐の面影に向かって話しかける。 (大佐、どこにいるのさ。オレに言い訳もさせてくれねぇの?) 大佐の怒りに触れて燃やされるならそれでも構わない。このまま誤解され続けるより、いっそ大佐の焔で焼き尽くして欲しかった。 大佐を見つけられないまま時間だけが過ぎていく。焦りと不安がオレを追いつめ、胃が食事を受け付けなくなり夜も眠れなくなる。傍目にも様子がおかしいオレをブレダが心配して言った。 「大佐がこんな事になって心配なのは判るけどよ。そもそもお前は命令に従っただけで、大佐に逆らえばなにされるか判らなかったし、お前が処分されるって心配する必要は───」 「そんなこと心配してないッ!大佐ははめられたんだ!あの人は軍の転覆なんて、そんなこと、これっぽっちも考えちゃいねぇよッ!!」 ブレダの言葉を遮ってそう怒鳴ればブレダがまん丸に目を見開く。ブレダだけじゃない、司令室の誰もが驚いてシンと静まり返る中、オレは言葉が口をついて出るのを止められなかった。 「大佐がどんなに凄い人で、どれだけ優しい人か、これっぽっちも知らないくせに勝手な事言うなッ!!口さがない連中の根も葉もない噂に大佐がどんだけ傷ついてるか、お前、考えたことあるのかッ?!」 言葉と同時に涙が溢れて、オレはボロボロと泣きじゃくる。大佐の事を悪く言われるのが悔しくて悲しくて、胸が支(つか)えて苦しくて、言いたいことはいっぱいあるのに言葉にならなかった。 「ハボック少尉」 その時、オレを呼ぶ声に視線を向ければホークアイ中尉がオレを見ている。いつも厳しい表情を浮かべている顔に優しい笑みを浮かべて中尉は言った。 「とにかく大佐を捜しましょう。全てはそれから。私たちも手を尽くすわ」 「中尉」 オレは見つめてくる鳶色を見つめ返して手の甲で乱暴に涙を拭う。泣き濡れた情けない顔でオレは中尉に敬礼を返した。 「時間がないわ、少尉。急がないと」 「アイ・マァム!!」 オレは頷いて司令室を飛び出した。 |
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