辿り着くはパナケイアの空  第三十三章


 静かに静かに水面下で学生達を集め、大きな組織として育て上げたのはジム・マクレーンという男だった。マクレーンは決して腕っ節が強い男ではなかったがその頭の良さと切れ味は抜群で、押しの強さと舌鋒で支持者を集め広げていったようだった。オレは独自のルートでマクレーンの居場所を見つけだし、数日前彼に会いに出かけたのだった。


「マクレーンに会いたい」
 小さなパブに入り店の中程まで進むとオレは店中に聞こえるような大声で言う。そうすればそれまで楽しげに談笑し、酒を交わしていた男たちが俄に殺気だった。
「誰だ、貴様」
「ジャン・ハボック少尉。マスタング大佐の部下だ」
 そう言うオレを男たちが胡散臭げに見る。オレは私服だったし、彼らの態度は当然と言えた。
「マクレーンはここにいるんだろう?会わせてもらえないか?」
 オレが重ねて言えば男たちが顔を見合わせる。強いるでなく彼らの返事を辛抱強く待てば、居並ぶ男たちの中から背の高い男が一人出てきて言った。
「いいだろう。マクレーンなら奥だ」
「おい、いいのかよ」
 背の高い男の袖を引いて別の男が言う。だが、背の高い男はオレの顔を真っ直ぐに見て言った。
「怪しいやつには見えない。だが、一応改めさせて貰う」
「ああ」
 男の言うことはもっともだったからオレは体の力を抜いて立つ。そうすれば男は服の上からオレの体を探って武器の有無を確かめた。
「妙なものは持っていないようだな」
「当たり前だろう?オレは話に来たんだから」
 そう言って肩を竦めるオレを背の高い男がじっと見る。
「こっちだ」
 男がそう言って歩き出すのについて、オレは店の奥へと向かった。じろじろと見つめてくる男たちの間を通ったオレは背の高い男についてカウンターの中に入る。男が棚に並んだボトルの一つを掴むとグイと手前に引くとギィという音と共に棚が横にスライドして階段が現れた。
「隠し階段……」
 細くて急な階段を前に思わず呟けば男が振り向いて頷く。オレが男に続いて階段を上り始めると背後でゆっくりと戸棚が閉まった。暗い中、手探りで階段を確かめながらゆっくりと上り二階に出る。狭い踊り場に面した扉を開けば、驚くほどに広い空間が広がっていた。
「ジム、お客だ」
「カーティス」
 男の声に机に広げた地図に向かっていた男が振り向く。眼鏡の奥の茶色い瞳を人懐こそうに瞬かせて、ジムと呼ばれた男は真っ直ぐにオレを見た。
「お前と話がしたいらしい」
 カーティスと呼ばれた男が言えばジムはオレに向かって手を差し出した。
「俺がジム・マクレーンだ」
「ジャン・ハボック少尉だ。突然すまない」
 差し出された手を握り返して名乗るオレにマクレーンは尋ねるようにカーティスを見る。カーティスは軽く肩を竦めるようにして言った。
「マスタング大佐の部下らしい」
「マスタング大佐の?」
 言われてマクレーンは目を見開いてオレを見る。上から下まで二往復ほど見て、マクレーンは言った。
「いつも連絡してくる奴とは随分感じが違うな」
「そりゃニセモンだもん、そいつ」
 オレがなんでもないようにそう言えば眼鏡の奥の茶色い瞳が大きく見開いた。


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