辿り着くはパナケイアの空  第二十九章


 明るい表通りを背にした大佐の顔は闇に沈んで表情が判らない。路地はどん詰まりで逃げることも出来なかった。カッと靴音を立てて大佐が路地に入ってくる。近づいてくる靴音にビクリと跳ねた体を唇を噛んで押さえつけると、オレは詰めた息を吐き出して口を開いた。
「大佐」
 呼びかければ近づいてきていた大佐が足を止める。オレは表情のよく見えない大佐に向かって言った。
「その……さっきは変な事言ってごめんなさい。……オレ、ちょっと酔ってて……だから、そのっ」
 途中からは大佐を見ていることが出来ずに目を背ける。なんとか言葉を探して続けようとしたオレの顎を伸びてきた手が掴んだ。
「ッッ」
 気がつけば大佐がすぐ目の前まで来ていた。顎を掴まれて顔を背ける事も出来ない。目を見開いて大佐を見つめれば黒曜石の瞳がオレを真っ直ぐに見つめて言った。
「どうしてキスしたのかと聞いたな。その答えを教えてやる」
「大佐……」
 低く囁く声にゾクリと背筋が震える。目の前に黒曜石の輝きがいっぱいに広がったと思うと唇が重なってきた。
「ん……ッ」
 反射的に開いた唇を割って大佐の舌が入り込んでくる。その舌に自分のそれを絡め取られて思わず大佐のシャツを握り締めた。大佐はオレの顎から手を離し、オレの背を撫でる。その手が上着の前を乱し、シャツの裾から入り込んできてオレはビクリと体を震わせた。
「嫌なら突き飛ばせ。そうでなければこのまま続ける」
「たい、さ……ッ」
 どうすることも出来ずにいるうちに大佐の手の動きが大胆になる。気がついた時には上着が落とされシャツが捲り上げられていた。
「あ…ッ」
 しっとりと湿った大佐の唇が肌に押しつけられる。そこから火が灯るように熱くなる体が怖くてオレは大佐に縋りついた。
「たいさ……ッ」
 理由を教えてやると言いながら大佐はその理由を口にしない。オレは縋りつく手に力を込めた。
「なんか言って、大佐……っ」
 そう言えば一瞬大佐の手の動きが止まる。でも、次の瞬間一層激しく肌の上を這い始めた手に息が止まった。その手がボトムにかかれば息の止まった唇から悲鳴混じりの声が零れた。
「大佐ッ」
 咄嗟に大佐の手首を掴めば大佐がオレを見る。その強い光に射竦められたように力の抜けたオレの手を振り解いた大佐の手が、下着ごとオレのボトムを引きずり降ろした。
「ッッ!!」
 下肢を剥き出しにされオレはヒュッと息を飲む。焔を操る大佐の指がオレの尻の間に忍び入ってきてオレはギクリと身を震わせた。
「た……さっ」
 その指が蕾を撫でたと思うとグッと潜り込んでくる。潤いのないそこに指を沈めた大佐がその指を強引に動かし始めて、オレは大佐の背に縋りついた。
「アッ……くぅ…ッ!」
 ひきつるような痛みに縋りついた手が震える。痛みに顔を歪めるオレに構わず指を動かし続けた大佐は更に指の数を増やした。そんなところに指を三本も突っ込まれて、オレは身動く事も出来ない。震えながら縋りつくオレの背を優しく撫でた大佐が挿れた時と同様、乱暴に指を引き抜いた。
「ヒゥッ!」
 痛みに悲鳴を上げながらも指が抜かれた事でホッと息を吐く。だが、それも束の間グイと片脚を抱え上げられ、オレはハッとして大佐を見た。じっと見つめてくる瞳に浮かぶのがなんなのか、その答えを見つける間もなく熱く滾る塊が押しつけられる。次の瞬間その塊をねじ込まれて、オレは激痛に悲鳴を上げた。
「ヒィィッッ!!」
 指なんかとは比べものにならない熱くて大きな塊がオレの中に入り込んでくる。狭い器官を強引に割り開き押し入ってくるそれに息が詰まった。
「く、ぅ……ッ!」
 痛くて苦しくて堪らない。あまりの圧迫感に息が出来ず、空気を求めて開いた唇を大佐のそれが塞いだ。
「ん……ん、ッ……」
 酸欠で頭が朦朧とする。フッと気が遠くなったその瞬間、ガツンと突き上げられて意識が引き戻された。
「ヒィッ!!アアッ!!痛いッ、いたぁ……ッッ!!」
 強引な抜き差しで内蔵が全部引きずり出されそうな気がする。痛みのあまりボロボロと泣きじゃくるオレの頬に大佐が唇を寄せた。唇でオレの頬を拭う大佐の仕草にオレの瞳に別の種類の涙がこみ上げてくる。
「なんか言って……たいさ…ッ」
 そう言っても大佐はなにも答えない。こうして強引にオレを抱く理由がなんなのか、それを教えて欲しいのに。
 激しい突き上げに切れ切れの悲鳴を上げて、オレは大佐のシャツを掻き毟った。
「ヒ……ッ、ぅ…ッ!!」
 好きな人と体を繋げているのにどうしてこんなに悲しいんだろう。体の痛みよりなにより心が痛くて、オレは泣きながら大佐を呼び続けた。
「たいさ……た…さァ……ッ!」
 好きなのに。こんなにもこんなにも大佐の事が好きなのに、それを伝える言葉が見つからない。
「アヒ…ッ、ヒ……ンッ!」
 薄暗い路地の中、大佐とオレの荒い息遣いだけが響く。オレを乱暴に突き上げていた大佐がオレの中でググッと嵩を増し今まで以上に圧迫感で息が出来なくなった瞬間。
「……ッ!!」
「ヒ……ヒィィィッッ!!」
 ガツンと最奥を抉られるのと同時に熱い液体がオレの内側を焼く。低く呻いた大佐の唇が悲鳴を上げるオレのそれを塞ぐのを感じたのを最後に、オレの意識は闇に飲まれていった。


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