オブシディアンの虜囚  第八章


 ロイの上着を抱き締めてソファーに座っていたハボックは、浴室の扉が開く音に弾かれたように立ち上がる。タオルで髪を拭き拭き出てきたロイは、大きな欠伸をしながら言った。
「ハボック、何か冷たいものをくれ」
「あ……はいっ」
 上着をソファーに置いてキッチンに行くハボックと入れ替わりにロイはソファーに腰を下ろす。ロイは自分には少し長い服の袖をまくり、やれやれとソファーの背に躯を預けて目を閉じた。
「どうぞ、大佐」
 聞こえた声に目を開ければハボックが冷たいハーブティーが入ったグラスを差し出している。ありがとうと手を伸ばしてグラスをとったロイは、グーッと一気に飲み干した。
「おかわりいります?」
「ああ、頼むよ」
 頷きながら差し出されたグラスを受け取ってハボックはハーブティーを注ぎロイに返す。今度はゆっくりと飲みながらロイが言った。
「合同演習はどうだった?」
「ええと……ぼちぼち?」
 何となく言いづらそうに首を竦めて言うハボックにロイはクスリと笑う。ロイはソファーの側に座り込むハボックの髪に手を伸ばしてくしゃくしゃと掻き混ぜた。
「なんだ、てっきり“バッチリでした”と答えると思ってたんだがな」
 そう言われてハボックは申し訳なさそうに俯く。全体としての出来はともかく、個人的にはとても誇れるような結果が残せなかったのは事実であり、しかもその理由は大きな声で言えるものではなかった。俯いたままハボックが言葉を探していると、ロイは飲み終えたグラスをテーブルに置いて立ち上がった。
「大佐?」
 尋ねるように名を呼べば、ロイは大きな欠伸をする。うーんと腕を伸ばして伸びをしたロイは、凝った首を解すように回しながらもう一つ欠伸をした。
「疲れたから寝る。明日は一度家に寄ってから行くから早めに起こしてくれ」
「……え?」
 ロイはそれだけ言って寝室に向かう。ハボックは慌ててロイの腕を掴むと端正な顔を覗き込むようにして言った。
「寝るって……寝ちゃうんスか?」
「ああ」
 欠伸混じりに答えてロイは、短い廊下の先にある寝室に行く。扉を開けて中に入るロイについて入ってきながらハボックが言った。
「なんで?一週間ぶりなんスよっ?」
 ブランケットをめくりベッドに上がろうとしたロイは切羽詰まったようなハボックの声にハボックを振り向く。縋りつくような空色にロイはすまなそうに言った。
「悪いな。疲れてるんだ、寝かせて───うわっ?!」
 言いかけた言葉をしまいまで言わせず、ハボックはロイに飛びかかる。ベッドに押し倒したロイの躯に縋りついて、ハボックは言った。
「オレっ、大佐にシて貰えなくてすっげぇ淋しかった!一週間、大佐が帰ってくるの、まだかまだかってずっと待ってたんスよっ!」
 そう言いながらハボックはロイの頬に己のそれをすり付ける。顔中にキスを降らせてくるハボックに、ロイは辟易しながら圧し掛かってくる躯を押し返した。
「私もお前に会えなくて淋しかったのは同じだが」
「だったらシよ?大佐っ」
「同じだが、ハボック、今日は疲れてるんだ。イイコにしてくれ」
 本気でうんざりしたように言うロイにハボックは目を瞠る。ロイから手を離しベッドの上に正座するハボックに背を向けて、ロイはブランケットを引っ張り上げた。
「おやすみ、ハボック」
 ため息混じりにそう言ってロイは目を閉じる。そのまま睡魔に身を任せようとしたロイは衣擦れの音に閉じていた目を開けた。
「大佐がいない間、オレ、我慢できなくて自分でシようとしたっス……大佐の事考えて自分でこすって、でもイけなくて……っ」
「ハボック?」
 泣き出しそうな声にロイは肩越しにハボックを振り向く。そうすれば服を脱ぎ捨てたハボックが脚を大きく開いて楔を握り締めていた。
「いっくらこすってもイけなくて……後ろ、弄ってないからかなぁって……」
 ハボックはそう言いながら己の指をしゃぶる。唾液でたっぷり濡らした指で、脚の狭間を撫でた。
「自分で挿れた事なんてなかったから怖かったけど……でも、イきたくてオレ……」
「ハボック」
 ロイは身を起こしてハボックを見つめる。その視線の先でハボックは濡れた指を一本、狭間にグイと押し込んだ。
「……ッ、こうやって……一本挿れてっ、かき、回してっ」
 その言葉通りハボックは押し込んだ指で蕾を掻き回す。グチュグチュとイヤラシイ水音を立てながら指を動かすハボックにロイは驚いて目を瞠った。
「ハボック、お前……」
「気持ちよくて……でも、やっぱりイけなくて……その翌日は三本挿れて……ッ」
 驚きに目を見開いて見つめてくるロイの視線の先でハボックは指の数を増やして後孔を掻き回す。大きく開いた脚の奥に己の指を埋めて喘ぐ姿は、堪らなくイヤラシかった。
「あ……ふっ、たいさぁ……ッ」
 ハボックはロイの視線を感じて後孔を激しく掻き回す。今では腹につくほど立ち上がった楔からタラタラと蜜を零しながら指を動かすハボックの姿に、ロイはゴクリと喉を鳴らした。
 普段セックスの時、その躯を開いて散々に蕩けさせると、ハボックは昼間の姿からは想像がつかないほどに乱れ、イヤラシイ言葉を口にし、ロイを強請る。だが、こんな風に最初から、それも自分で自分の後孔に指を突き挿れて悶える姿を見せるなど、ハボックの性格からはとても信じられなかった。
「たいさ……たいさぁ……ッ」
 だが、今のハボックはまるでたがが外れてしまったかのように淫靡な姿をロイの前に曝している。グチュグチュとイヤラシイ音を立てて蕾を掻き回すハボックを見つめていたロイは、ニヤリと笑って言った。
「それで?……私を呼んで私に犯されていると思いながらイったのか?」
 そう尋ねればハボックが切ないため息を零して首を振る。そんなハボックの開いた脚の内側をそっとさすってやりながら、ロイは尋ねた。
「じゃあどうしたんだ?」
 尋ねられてハボックは一瞬迷うように目を見開く。その瞳の奥に見えた罪悪感に気づいて、ロイは低い声で尋ねた。
「誰かにシてくれと強請ったのか?」
「強請ってないっス!あれはネルソンが勝手に……ッ」
 反射的に言いかけてハボックはハッとして口を噤む。だが、その言葉をロイが聞き流すはずもなく、ロイはハボックにズイと顔を寄せて尋ねた。
「ネルソンがどうしたって?まさか」
 寝たのか?と低く囁かれ、ハボックは激しく首を振る。誤魔化すことも出来ず路地裏での一件を話せば、ロイはハボックの耳を甘く噛んで言った。
「それじゃあお前は私以外の奴にここを弄らせたんだな?」
「ごめんなさいッ!途中でなにがなんだか判らなくなって……ずっとイきたくてイけなくて……イけるかと思って……ッ」
「ハボック、お前はっ」
「でもイけなかったッッ!!」
 カッとなって詰ろうとしたロイの言葉を遮ってハボックが叫ぶ。その声にロイが一瞬口を噤めばハボックが震える声で言った。
「イけなくて……オレっ、玩具突っ込んでメチャクチャにしたけどっ、やっぱダメだった!!オレ……大佐でないとイけない……ッッ!!」
 ハボックはボロボロと泣きながらロイに訴える。
「大佐が好き……ッ、オレ、大佐でないとイけないっ!オレの心も躯も全部大佐のだからッ!!」
 だからシて、とハボックはロイに強請る。腰を突き出しグチュグチュと蕾を掻き回す様をロイに見せつけるハボックの姿をじっと見ていたロイは、ハボックの手首を掴むと乱暴に引っ張った。
「アアッッ!!」
 沈めていた指を強引に引き抜かれてハボックが悲鳴を上げる。咥えていたものを惜しむようにヒクつく蕾を見つめて、ロイはハボックに囁いた。
「玩具を突っ込んだと言ったな?やってみせてみろ、どうやってイこうとしたんだ?」
 そう言われてハボックは涙に濡れた目を見開く。それでもベッドから降りると抽斗にしまっておいた玩具をとって戻ってきた。ロイの前にグロテスクなそれをそっと差し出す。ロイは男根を形作ったイヤラシイ玩具に片眉を跳ね上げると、ハボックを見て言った。
「どうやったのかやってみせろ」
「大佐……っ、オレっ、大佐のが欲しいッ」
「やってみせるんだ、ハボック。それともネルソンとの一件から再現するか?」
 そう言われてハボックは目を瞠る。だが、それ以上はなにも言えず、ハボックはおずおずと玩具に手を伸ばした。


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