オブシディアンの虜囚  第六章


「ハボック、この書類、不備があるって返ってきてっぞ」
「え?」
 司令室に戻ってきたブレダが持っていた書類をハボックに差し出す。手を伸ばしてそれを受け取ったハボックは苛々と髪をかき乱した。
「大丈夫か?ハボ」
「……え?」
 不意にそう尋ねられてハボックは顔を上げる。そうすれば心配そうにこちらを見ているブレダと目が合った。
「なんか変だぜ?北の連中と揉めでもしたのか?」
 そう聞かれてもハボックには答えようがない。結局「別になにも」と答えるしかなく、言葉を濁すハボックにブレダもそれ以上は追求してはこなかった。
「なんかあったら言えよ、ハボック」
「うん、サンキュ、ブレダ」
(言えるわけねぇし)
 笑って答えたもののとても言える内容でなのは判りきっている。躯が疼いて眠れませんなんて、一体どうして言えるというのだろう。
 後孔に己の指を突っ込むという恥ずかしい行為をしてさえイケなかったあの夜からの二晩、ハボックは己を慰めるのをやめていた。その代わり浴びるように酒を飲んで眠るという、普段なら絶対にやらない方法で強引に眠りの淵に己の躯を沈めている。当然そんな方法で得た眠りに心や躯を癒す効果などあるはずもなく、この二日、演習も事務処理を含む日々の業務も惨憺たる結果となっていた。
(なんでこんな事になってんだろう……)
 正直、これまでだって業務が忙しくてセックスどころか自慰行為すらしないで過ごす日々がなかったわけではないのだ。それなのにほんの数日、どうしてこんなに躯が疼いて、何故どうやってもイケないのだろう。
(でも、明日には大佐、帰ってくるし……っ)
 ロイが帰ってくればこの熱から解放される。ハボックは呪文のように「あと一日」と繰り返して、のろのろと時間が過ぎていくのを待っていた。


「よう」
 ロッカールームを出たところで声をかけられて振り向けばネルソンが立っている。ハボックが思わず眉を寄せればネルソンが苦笑して言った。
「そんな顔することねぇだろ?メシ一緒にどうだ?もう合同演習も終わるし」
「……明日の夕方打ち上げがあるっしょ?どうせその時一緒に食うじゃん」
 ハボックはそう言うとネルソンの横をすり抜けて行こうとする。だが、ネルソンに腕を掴まれてハボックはムッとして男を睨みつけた。
「離せよ」
「いいだろ?部下どもがいたらゆっくり話も出来ねぇし、それとも俺を避ける理由でもあるのか?」
 そう聞かれてハボックはネルソンをじっと見つめる。それから、フイと視線を逸らして言った。
「ちょっとだけなら」
「そうこなくっちゃ」
 欲しかった答えを引き出してネルソンがニッと笑う。それでもその手を離さないのを見て、ハボックが嫌そうに言った。
「手、離してくださいよ」
「おっと」
 言われてネルソンはハボックの腕を離す。ギュッと強く掴まれていたところが熱く疼くようで、僅かに眉を顰めたハボックはネルソンがじっと己を見つめていることに気づいた。
「なに?」
「いや……行こうか」
 そう答えて歩き出すネルソンを半歩遅れて追ったハボックは、男の唇にイヤラシイ笑みが浮かんでいることに気づかなかった。


 数日前、一緒に食事をとった店で同じようにカウンターにつく。美味しい筈の料理を味もよく判らぬままビールで流し込むと、ハボックは早々に席を立った。
「帰ります」
「もう?全然話せてねぇじゃん」
「話す事なんてないし」
 ハボックは素っ気なく言うと、自分の分の代金をテーブルに置いて店を出る。だが、数歩も歩かないうちに追いかけてきたネルソンに腕を掴まれ、店の脇の路地に引っ張り込まれた。
「ちょ……ッ、離せよッ!」
 ハボックはそう言いながらネルソンの手を振り払おうとする。だが、ネルソンは手を離すどころか、ハボックの躯を積み上げられた酒の箱の間に押し込むようにして身を寄せてきた。
「なあ、アンタ……溜まってんだろ?」
「えっ?」
「演習中も色っぽい顔しやがって……おかげでうちの連中がアンタをレイプしたいって、ロッカールームで騒いで大変だったんだぜ?」
「ッ?!」
「だから俺が代表して味見してやろうと思ってさ」
 ネルソンは躯を密着させて耳元にそう囁く。カッと顔が赤く染まったのはとんでもない言葉に腹を立てたからなのか、それとも耳元に吹き込まれた熱い吐息にゾクリと震えてしまったからなのか、ハボックには判らなかった。
「ふざけんなッ!離せッ!!」
「そう言うなよ、ちょっとだけだからさ」
 ネルソンはそう言ってハボックの首筋に舌を這わせる。それと同時にハボックの股間を、ボトムの上からギュッと握り締めた。
「アッ」
「なんだ、もう勃ってんじゃねぇか」
 既に熱を帯びて始めているハボックの中心をネルソンが揉みしだく。もう何日も熱を吐き出せないでいたそれは、布地越しの愛撫に瞬く間に張りつめた。
「やめろッ」
「こんなにしておいて言うセリフじゃねぇな」
 必死に押し返そうとするハボックを躯を押しつけるようにして壁に縫い止めて、ネルソンはハボックのボトムを弛める。下着ごとボトムをずり下げれば、ハボックの楔が飛び出すように天を突いてそそりたった。
「おっ、すげぇ元気じゃん」
「ヤダっ」
 からかうような言葉にハボックが顔を真っ赤に染めてもがく。ネルソンはハボックの腰を抱え込み、双丘を鷲掴むと指先でその狭間を嬲った。
「なあ、もしかして毎晩ここにマスタング大佐のもん、ぶち込んでもらってんの?」
「な……ッ?!」
 ギクリとするハボックにネルソンはクスクスと笑う。
「やっぱな、そんな気がしたんだよ。じゃあ、放っておかれて躯が疼いて仕方ねぇんだろ」
「違うッ!触んなッ……ヒャッ?!」
 グイと双丘を割り開くようにして人差し指を二本、強引に押し込まれて身を強張らせるハボックにネルソンが低く笑った。
「イかせてやるよ、溜まってんだろ?」
 そう囁くなりネルソンは沈めた指をグチグチとかき回す。熱く熟れきった躯はロイ以外の愛撫にも反応して、ハボックはガクガクと躯を震わせた。
「やめ……っ、やめろ……ッ」
 口ではそう言いながらも心のどこかでやっとイけるかもしれないなどという期待が頭をもたげる。ハアハアと熱い息を肩口に零すハボックに、ネルソンがニヤリと笑って指の動きを早めた。
「あ……ふぅ……ッ」
 感じる部分を掠める指に、ハボックはしがみつく相手がネルソンであることも忘れて解放の予感に震える。だが、高まった熱はある一線で留まったままそれを越えて溢れてこようとはせず、そうなれば秘窟を掻き回す指はただ不快でしかなかった。
「あ……オレっ」
 不意にハボックは己がとんでもない事をしていることに気づいてネルソンを突き飛ばす。
「ウワッ?!」
 腕の中で大人しくなっていた相手にいきなり突き飛ばされて、地面に尻餅をついたネルソンの脇をすり抜けてハボックはその場から逃げ出した。
「オレ、なにやって……ッ」
 乱れたボトムをおざなりに直して、ハボックは賑わう通りを駆け抜ける。途中スピードを落とさずアパートまでたどり着くと、ハボックは一気に階段を駆け上がり部屋に飛び込んだ。そのままの勢いで歩きながら服を脱ぎ捨て浴室に入る。勢いよく出したシャワーの水流を、指で開いた蕾に押し当てた。
「ああッ!!」
 ネルソンに嬲られた後孔に湯が入り、ハボックは背を仰け反らせる。暫くの間そうしてシャワーを掛け続けた後、ハボックはシャワーを止めるとのろのろと浴室を出た。濡れた躯を拭きもせずポタポタと滴を垂らしたまま寝室に入る。ハボックは抽斗に突っ込んでいたバイブとゼリーのチューブを取り出すと、バイブにゼリーを垂らして塗り込めた。ゼリーでヌラヌラと光る赤黒いバイブを手にベッドに上がると脚を大きく開く。指先で蕾を開けば入り込んでいた湯がコポリと溢れた。
「…………」
 ハボックはイヤラシイ玩具の先端を蕾に押し当てる。次の瞬間躯を折り曲げるようにして一気に突き入れた。
「ヒアアアアアッッ!!」
 巨大な玩具に貫かれて、ハボックは喉を仰け反らせてビクビクと震える。ハアハアと乱れる息を吐き出す喉に何度も唾を飲み込むと、玩具のスイッチを入れた。
「ヒィィィッッ!!」
 一気に強まで目盛りを上げた玩具はハボックの中で激しく震える。目を剥いてバイブを握っていたハボックは、激しく震える玩具を入口まで強引に引き抜くと、ガツンと奥まで突き入れた。
「アヒィッ!!」
 突き入れた玩具で感じる部分をゴリゴリと押し潰せば快感が背筋を突き抜ける。そそり立った楔からタラタラと蜜が零れ、玩具を咥える蕾をしっとりと濡らした。
「アアッ!!大佐っ!たいさァッッ!!」
 ハボックは涎を垂れ流す唇でロイの名前を呼びながら、低いモーター音を響かせる玩具を激しく抜き差しする。腹につくほどそそり立った楔から零れる蜜と残っていた湯で、ぐちゃぐちゃになるほど太い疑似男根で後孔を掻き回していたハボックだったが、やがてその手を玩具から離した。
「も……ヤダ……」
 どれほど激しく掻き回し、突き上げても望む瞬間は訪れない。
「たいさ……助けて……ッ」
 ハボックは己の躯を抱き締めて、暗闇の中すすり泣いた。


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