| 「たった一晩で解決しちゃうなんて流石所長ですね!」 翌日事務所で事件の経緯を説明すれば、 調査の結果を報告しにいった私は、商店主達に幽霊はいなかったと告げたものの、では一体なんだったんだと説明する段になって説明に困り、苦し紛れに乞食が一人住みついていたと言ってしまっていた。 『乞食ですか?』 『ああ、彼の髪を月明かりの中幽霊と見間違えたんだろう。人は思い込むとそうとしか見えなくなってしまうものだからな』 にっこりと笑ってそう言えば書店の主はホッとしたような顔をした。だが、次の瞬間目を吊り上げて『追い出さなければ』と言い出すのを聞いて私は焦ってしまった。 『そんなところに乞食に住みつかれたのでは気持ちが悪いし、店のものに手を着けられたりしたら困りますから』 男がそう言って他の連中と相談すると言うのを、私が面倒を見るからと言う条件で彼の身の振り方が決まるまで住むのを赦して欲しいと半ば強引に話を決めてしまった。男は多少難色を示したものの、何かあれば私が全面的に責任をとると約束したのと、とりあえず幽霊ではないと判ったことで当初の問題が片づいたというので了承してくれた。 「 昨夜知った青年の名を口にしてみる。彼は一体どこの誰でどうしてあそこにいるのだろう。 『もしあの人にみつかったら』 「……今夜行けば少しは判るか」 半ば強引に取り付けた約束。少なくとも 「…… 私はそう彼の名を呟くと、ペンを手に取り報告書を纏めていった。 仕事を終えると私は当座必要なものとして食料と幾つかの食器、ランプと数枚の着物や下着の他、布団を一組自転車に括りつけて家を出る。荷物が走っているのかというような自転車に行き交う人々がギョッとして道をあける中、私は 「 大声でそう言ったが返る答えはなかった。もしかしてどこかへ行ってしまったのだろうか。俄に不安になって、私は自転車のスタンドを立てると荷物をそのままに中へと入っていく。昏い屋敷の中をきょろきょろと見回しながら歩き回った私は、昨夜と同じように二階に続く階段を上がった。 「 二階の、大きく開いた窓辺に 「 そう言って漸く 「ホントに来たんスか?」 「そう約束しただろう?」 半ば強引ではあったが私は確かに「来る」と言ったのだ。そう言えば 「来ないと思ってたっス」 「どうして?」 「だって依頼は幽霊の調査だって言ってたし、来るなら商店の人かなって」 追い出される事を覚悟していたのだろう、そう言う 「暫くはお前がここにいるのを目を瞑ってくれる事になったよ」 「え?」 私の言葉に 「だから心配しなくていい。とりあえず荷物を運ぶが……そういや下駄のまま入ってきてしまったな」 もう何年も放置されている様子の屋敷に、流石に履き物を脱ぐ気になれず畳敷きであるにも関わらず玄関で下駄を脱いでこなかった。私は申し訳なさそうに下駄を脱いで言った。 「ざっと掃除した方がいいな。道具はあるかな」 「さあ、探したこと、ないから」 そう答える 「箒があったぞ」 「あ、ランプ」 見つけた箒を手に二階に上がれば、箒よりもランプの焔に 「すんません、オレがやるっス」 少しして 「そんなもんまで持ってきたんスか?」 細い階段を上がって布団を持ち込めば 「暑いとはいえ畳の上に直に寝たのでは体が休まらないだろう?着替えも持ってきたぞ」 そう言って次々と荷物を運び込む私に 「どうして?アンタがここまでする義理、ないっしょ?」 確かに 「商店主達に約束したからな。ここにお前をおく代わりに私が面倒をみると」 私は自分の中の考えは口にせずそう答える。すると 「すんません、本当にオレがここにいられるよう話をつけてくれたんスね」 迷惑をかけたと恐縮する 「好きでやったことだ、気にするな。それより腹が減ってるんじゃないか?飯にしよう」 言って胡座をかいて腰を下ろし、 「そんな座り方、すぐ脚がつらくなるぞ」 「でも……」 「別に気を使う必要はないんだぞ」 きちんと座ってないと失礼だとでも思っているのだろうか、そう思って言ったが 「どうぞ」 と勧めれば 「……旨いっス」 焼き鮭のほぐし身を入れた握り飯を頬張って 「 あっと言う間に三つも握り飯を平らげて、今度はゆっくり味わうように芋や卵を口に運びながら 「残念ながら料理の腕はからきしでね。通いの家政婦に作って貰ったんだ」 「家政婦さん?」 「独り者なんで、放っておくと家の中が大変な事になるからな」 そう言えば 「幾つか聞きたい事があるんだが、聞いてもいいか?勿論答えたくないことは答えなくていいから」 逃げ道を残した上でそう口にする。不安げではあったがじっと見つめてくる 「その 「仏蘭西っス。日本語は日本人だった祖母から習ったんス」 道理で日本語が上手いわけだと納得する。私はまずは無難な質問を選んで尋ねた。 「年は? 「今年で十八歳っスよ。 「なるほど」 故郷を懐かしんで孫にそんな名をつけたのだろうか。日本のどこにでもいる可愛らしい鳥の名は意外にも彼にしっくりと馴染んでいて、この名を彼に与えたという女性というのはどんな人なのだろうと思った。 「いい名前だな」 思ったことを素直に口にすれば 「それで……どうしてここに?」 打ち捨てられた古い屋敷に息を潜めて隠れ住んでいるのは何故か。一番知りたいことではあったが 「あの人の……側に居たくなくて……」 「あの人?あの人いうのは誰だ?」 外に食事に行こうと言ったときにも 「ごめんなさい……っ」 「構わない。答えたくなければ答えなくていいと言ったのは私だ」 「詳しい事情は判らんが、暫くはここにいるといい。色々持ってきた事だしな」 そう言ってニヤリと笑って見せれば、ホッと息を吐いた |
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