凌霄花(のうぜんかずら)の宿  第二十三章


 幾つもの波を越え船は日本に向かう。途中何カ所か寄港し、積み荷を入れ替え乗客を吐き出し新たな乗客を飲み込んで船はゆっくりと、だが確実に日本へと近づいていった。
「ぅん……ッ、あふ……も、やめて……真栖(マース)っ」
 四つに這った躯を背後から抱え込みぐちゅぐちゅと蕾を掻き回す。そうすれば甘ったるい声を上げて(ジャン)が身悶えた。
真栖(マース)……ッ、お願い……ッ」
 赦してくれと啜り泣く(ジャン)の背に俺は覆い被さるようにして身を寄せる。その耳元に唇を寄せ、形のよい耳の輪郭を舌先でなぞりながら囁いた。
「いい加減認めるか?お前は俺のものでこれから日本でずっと一緒に暮らすと誓うか?」
 だが、そう尋ねた途端、(ジャン)はシーツを握り締めて黙り込んでしまう。何度その身を猛る牡で貫き、身の内を滾る熱で濡らしても(ジャン)は決して頷こうとはしなかった。
「こ、の……ッッ!!」
 頑ななまでに俺を拒む姿に頭にカッと血が上る。膨れ上がった楔でガツガツと乱暴に突き上げれば(ジャン)が悲鳴と共にびゅくびゅくと熱を吐き出した。
「あ……アアアッッ!!」
 背を仰け反らせた(ジャン)の蕾が咥えた俺の楔をキュウと締め付ける。その締め付けに逆らわず(ジャン)の奥底に熱を叩きつけて俺は(ジャン)に言った。
「どうして認めないんだ?お前の躯がこんなに悦ぶのは俺に愛されているからだ。雀鈴(ジャクリーン)の事を気にしているのか?それなら気にする必要なんてない。愛し合うのに出会う順番なんて関係ないんだ。俺はたまたま雀鈴(ジャクリーン)と先に出会ってしまっただけで俺が本当に愛する相手は───」
「大っ嫌いっス!!」
 言い募る俺の言葉を遮って(ジャン)が叫ぶ。背後から貫かれた苦しい体勢であるにもかかわらず、(ジャン)は肩越しに俺を睨みつけた。
真栖(マース)なんて……嫌いっス、大嫌い……ッ」
(ジャン)……」
 苦痛と快楽の涙に濡れる空色の瞳が拒絶の色をたたえて俺を睨む。その目に見られるのが耐えきれず、俺は(ジャン)の頭を掴むとベッドに顔を押しつけた。
「言うな……ッ、俺を嫌いだなんて、言うなッッ!!」
「グゥッ!!ンアアッッ!!ヒィィッッ!!」
 ベッドに顔を押しつけられてもがく(ジャン)を俺は乱暴に突き上げる。狭いベッドの上、乱暴に押し開かれ貫かれて喘ぐ(ジャン)の躯の最奥を抉ると同時に、俺は熱い飛沫を叩きつけた。


 日本へ向かう船の中、俺は(ジャン)を犯し続けた。(ジャン)は大人しく俺に躯を開きはしたが、その瞳はずっと俺を拒み続けた。愛しい空色があくまでも俺を拒むのが辛くて、俺は(ジャン)の躯を暴く。深く繋がりその身の奥を俺の熱で濡らして、時に脅すように時に懇願するかのように、(ジャン)に俺を受け入れるよう訴えたが、(ジャン)の瞳が俺への愛情を浮かべることはなく、(ジャン)はどこまでも俺を拒絶した。


 そうしてついに船は日本へとその身を寄せた。


「ヤダっ、離せッ!」
 上陸するために睡眠薬を飲ませようとすれば(ジャン)が必死に抵抗する。俺は(ジャン)の細い躯を押さえつけ顎を掴んで錠剤をその口にねじ込もうとした。
「飲むんだ」
 だが、(ジャン)は唇を噛み締め口を開こうとしない。それどころか(ジャン)はどこにこんな力が残っていたのかと思えるほどの力で俺の腹を思い切り蹴り上げた。
「グッ?!」
 思いがけない抵抗に押さえつける手から力が抜ける。その隙に(ジャン)は俺の躯の下から抜け出し船室から飛び出した。
「ッ?!待てっ、(ジャン)ッッ!!」
 今ここで騒ぎを起こせば(ジャン)を連れて船を降りられなくなってしまう。俺は腹を押さえながらも慌てて(ジャン)の後を追った。


 船の中は日本に上陸しようとする乗客でごった返している。俺は大きな荷物を抱える客達を押し分けるようにして(ジャン)の後を追った。
(ジャン)っっ!!」
 誰かに助けでも求められたら話がややこしくなってしまう。俺にとって(ジャン)を日本に連れて帰ってきた事は当然の事態であったが、それを日本の警察や外務省に納得させるのが難しい事ぐらい判らないではなかった。
「くそっ、どこだっ?(ジャン)ッ!!」
 金色の髪を探して俺は船の中を駆け回る。だが、その姿はどこにも見つけられないまま、気がつけば乗客の殆どが船から降りてしまっていた。
「サー、お急ぎください」
 船員がいつまでも降りようとしない俺にそう言って下船を促す。(ジャン)がいなくなった事を言うわけにもいかず、と言って船を降りることも出来ないでいる俺に船員は困惑と苛立ちの入り交じった表情を浮かべた。
「なにか船でなくしたものでも?それでしたらどういうものか教えて頂ければ私どもの方でお探ししておきますから」
 そう言われても押し黙るしかない。結局は半ば追い出されるようにして俺は船のタラップに向かう。船員を殴ってでも船に戻ろうかどうしようかと悩みながら視線を巡らせたその先で、俺はあるものを見つけた。
 波間に浮かぶ小さな布製の包み。それは(ジャン)が仏蘭西にいた頃から肌身離さず持っていたサシェの包みだった。
『日本の匂い袋に似てるって祖母が気に入ってたものなんス』
 まだ(ジャン)とこうなる前にそう言って見せてくれた小さな包み。(ジャン)はどんな時も祖母の形見であるそれを大切に持っていた。今それが波の(まにま)に力なく揺れている。
(ジャン)……ッ」
 俺は船の手すりを握り締めて呆然と小さなサシェを見つめていた。


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