レヴィアタンの焔  第四十四章


 なるべくゆっくり歩いてきたものの、足を動かしている限りは目的地に着いてしまうものだ。ブレダはいつもの3倍くらいの時間をかけて階段を上るとハボックの部屋の前に立った。気持ちを落ち着かせるように何度も息を吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返して己に言い聞かせるように言った。
「いいか、ハイマンス、何をみても動じるな。たとえ大佐が尻出して伸びてようと、ハボが素っ裸で蹲ってようとそれは全部ビールが見せた悪い夢だ、夢なんだ――ッ」
 ブレダは必死にそう言い聞かせるとドンドンと扉を叩く。だが、全く出てくる気配がないことに眉を顰めて呟いた。
「もしかして大佐が目ぇ覚まして自分たちで何とかしたとか…」
 非常に希望的な観測を口にしてそのまま帰ってしまおうかと思う。だが、さっきのハボの泣き声を思い出せば流石にそれもできず、ブレダはそっとノブを回した。
「開いてる…」
 何の抵抗もなく開いた扉にブレダは顔を顰める。
「不用心だな、おい」
 扉の鍵もかけないままセックスに興じていたのかと、ブレダは口の中で上司を口汚く罵った。勝手知ったる部屋の中をドスドスと足音も荒く歩くと目の前のドアを開ける。リビング兼ダイニングのその部屋の隅に目をやれば空色の瞳と目があってブレダは踏み出した足をそのままに凍り付いてしまった。
「ブレダぁ…」
 電話のすぐ傍にへたり込んだハボックは体に薄い布らしきものを巻き付けてはいる。だが剥き出しの長い脚には明らかにキスマークらしきものが浮かび、あろう事か乾き始めた白濁がこびりついていた。
「ハ、ハ、ハ、ハボックぅっ」
 ハボックを呼んだ声は見事に裏返っていて、ブレダはチッと舌を鳴らすを咳払いしてもう一度友人を呼んだ。
「ハボ、大丈夫か?」
 そう尋ねれば安心したのかハボックはポロポロと涙を零す。これが同意でなくて無理矢理だったら思い切り上司をぶん殴ってやるのにと、奥歯を噛み締めて思うブレダにハボックが言った。
「大佐、服着せらんなくて、ブランケット掛けただけなんだ…熱あるし、早くあったかい格好させてあげないと…っ」
 不安に泣いているくせに先ずロイの事を口にするハボックにブレダは僅かな憤りを感じる。グイとハボックの肩を掴むと言った。
「大佐より先ずお前だろ?どうしていいのか判んなくて俺のこと呼んだんじゃねぇのかよっ」
 自分の心配しろ、自分の、と怒るブレダにハボックは鼻を鳴らす。ブレダの顔を見上げるようにして聞いた。
「ブレダ、後始末のやり方、判んの?」
「あー……まあ、な」
「そっか、よかった」
 明らかにホッとした様子のハボックにブレダは慌てて言う。
「言っとくがな!俺はやり方教えるだけだぞっ、後は自分でやるんだからなっ!」
「えっ、ブレダやってくれないのっ?」
「できるかっ、バカッ!!」
 もの凄い勢いで怒鳴られてハボックは空色の目を見開く。その幼い表情にブレダは「しまった」と顔を歪めると言った。
「別に意地悪で言ってんじゃねぇからなっ、事が事だけに俺にゃできねぇんだよ」
「どして…?」
 不安そうに聞いてくるハボックから顔を逸らすと斜めに見つめてブレダは言った。
「あー……その、入れられたんだろ?アソコに大佐のナニを」
「えっ?…あ、うん…」
「んで、中に出されたんだよな?」
 赤い顔をして聞くブレダにこれまた顔を真っ赤にしたハボックが答える。コクコクと恥ずかしそうに頷くハボックにブレダが言った。
「中に出されたもんは出さなきゃならない。何故なら男の体はそういうもんを受け入れるようには出来てねぇからだ、判るな?」
 そう聞けばハボックは覚束無い表情でブレダを見る。ブレダはハボックに顔を近づけると早口で言った。
「浣腸したら出したくなるだろっ、あんな感じになんだよっ」
「えっ?!うそっ!」
 ギョッとするハボックにブレダは真面目そうな表情を浮かべる。
「だからそうなる前に出さなきゃならんわけだが、そのまま垂れてくるのを待つわけにもいかない。そこでだ、どうするかというと」
 ブレダはハボックを正面から見据えて言った。
「指突っ込んで掻き出せ」
「…オレが?」
「お前以外に誰がやんだよっ」
「だって無理だよっ」
「下痢ピーは嫌だろうがっ」
 そう言われてハボックはヒクリと喉を鳴らす。ブレダはポンポンとハボックの肩を叩いて言った。
「辛いとは思うがそのままにしてたらもっと辛くなる。頑張れ、ハボ」
 しかめつらしく言うブレダにハボックは俯いて唇を噛む。「立てるのか?」とブレダが聞けばハボックはふるふると首を振った。
「手、貸してやる。ほら、ハボ」
 そう言って差し出される手に縋ってハボックはふらふらと立ち上がる。そうして初めてブレダはハボックが体に巻き付けているのが、普段ソファーにかけられていたカバーだと気づいた。
「歩けるか?」
「たぶん…」
 ブレダの肩を借りてゆっくりと浴室へ向かう。洗い場にハボックを押し込もうとしたブレダは、ハボックの手に腕をぎゅっと握られてハッとしてハボックを見た。
「嫌かもしんないけど、大佐のことお願い、ブレダ」
 まだ自分の方の後始末すらちゃんと出来るか判らない状況でそんなことを言うハボックに、ブレダはムッと唇を突き出す。
「大佐の心配する前にお前は自分の心配しろ、自分の!」
「でも…っ」
「大佐の事は俺がする」
 きっぱりと言うブレダにハボックは僅かに目を見開いた。それからほわりと笑って言う。
「ありがと、ブレダ」
 そんな風に笑うハボックが切なくて、ブレダは唇を歪めたまま浴室の扉を閉めた。

「とは言ったものの」
 ハボックを浴室に押し込んだブレダは、言ってしまった言葉の手前ロイの面倒を見なくてはいけなくなってしまった事に気づいて愕然とする。寝室の扉の前に立ったまま中々開けることが出来ず、あちこちに視線をさまよわせた。
「ブランケットを掛けたって言ってたよな。ならいきなり大佐の尻とご対面する事はねぇわけだ」
 自分を宥めるようにそういい聞かせると、1、2の3で扉を開ける。ベッドの上のブランケットの山を睨むとゆっくりと近づいていった。
「…大佐?」
 半ば埋もれた顔に向かってそう呼びかけてみる。だが案の定返ってくるのは苦しげな呼吸ばかりでブレダはムカムカとして顔を顰めた。
「こんな調子で盛ってんじゃねぇッ」
 低い声でそう呟くと、ブランケットから覗くロイの頭をグーで思い切り殴った。

 浴室に入ったハボックは壁に縋って立っていたが、ガクガクと震える脚では我が身を支えていられなくなってずるずると座り込んでしまう。冷たい床の感触にゾクリと身を震わせてキュッと唇を噛んだ。
「指突っ込んで掻き出すっていってたけど…」
 そう呟いて座り込んだ自分の脚の間へと目を向ける。髪より僅かに色の濃い茂みのさらに奥にある蕾の事を考えて、ゴクリと唾を飲み込んだ。へたり込んだ体を壁に預けて脚を開く。おずおずと股間へ手をやるとそっと蕾に触れた。
「…っ、は、あ……」
 触れただけで息があがる。とてもその中に指を突っ込んで掻き出すなど出来そうになくて、くしゃくしゃと顔を歪めた。
「たいさぁ…っ」
 そう呼んでも答える相手はベッドの上だ。ハボックはヒックとしゃくりあげながら、それ以上どうすることも出来ずに小刻みに体を震わせた。
「でも、やんなきゃ…」
 きちんと処理が出来なくて腹を壊したらロイもブレダも心配するだろう。特にブレダはロイに対して腹を立てるに違いない。
 ハボックは何度も浅い呼吸を繰り返すとツプリと蕾に指を差し入れた。
「あっ」
 ビクンと体を震わせハボックは背を仰け反らせる。注ぎ入れられた白濁のぬめりを借りて奥へと指を差し込んでいった。長い指を一本、根元まで入れたまではよかったが、そこから先がどうにも動かすことが出来ない。ハボックはハアハアと息を吐き出しながら緩く首を振った。
「たいさ……」
 辛くて助けを求めるように呼べば、さっきまでの熱い行為が思い出される。ロイの指がどうやって動いていたかをなぞるようにゆっくりと指を動かし始めた。
「たいさ…」
 クチ、とイヤラシイ音が浴室に響きハボックは震える息を吐き出す。指の動きに合わせてコポリと音がしたかと思うと蕾から白濁が零れ落ちた。
「あ…」
 双丘を伝って零れる感触をハボックは目をギュッと瞑って耐える。休みながらゆっくりと指を蠢かして注ぎ込まれた白濁を掻き出していった。

「あ…ふ…」
 長い時間を掛けてハボックは作業を続けていく。慣れない仕草で白濁を掻き出し終えた頃には、裸の体はすっかりと冷えきって小刻みに震えていた。
「出なきゃ…」
 ハボックはそう呟くと唇を噛み締め沈めていた指を引き抜く。壁に手を添えてよろよろと立ち上がるとシャワーの湯を出してザッと浴びると浴室を出た。おざなりに体を拭くとブレダが置いてくれたらしいスエットのズボンだけを穿いてふらふらと脱衣所を出た。
「ハボ」
 ハボックが出てきたのに気づいてブレダが近寄ってくる。気遣わしげに見つめてくるブレダにハボックは聞いた。
「大佐は?」
「ああ、大丈夫。ちゃんとやっといたから」
 どうやったとは説明せずにブレダが言う。ハボックはホッとしたように笑うと言った。
「そか…よかった…」
 それだけ言ったハボックの体がグラリと傾ぐ。慌てて伸ばされたブレダの腕の中にハボックの長身が倒れ込んだ。
「ハボっ?!」
 支えた体の熱さにブレダは目を見開く。チッと舌を鳴らすと気を失ったハボックの体をブレダは乱暴な仕草で抱き上げた。


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