レヴィアタンの焔  第四十三章


「……ッッ!!」
 ドクドクと体の最奥に注ぎ込まれる熱い液体にハボックは空色の目を見開く。そんな風に体の内側を濡らされることなど考えたこともなくて、ハボックはロイの体にしがみついて小刻みに震えた。
「ハボック…」
 ハアハアと荒い息とともに胸を会わせたロイの唇からハボックを呼ぶ声がする。ハボックは閉じていた瞳をひらくと間近のロイの顔を見つめた。
「…た、いさ…」
 そう呼んだ途端、熱いものがこみ上げてハボックはボロボロと泣き出してしまう。ヒックとしゃくりあげるハボックをロイは優しく抱き締めた。
「愛してる、ハボック…ずっとこうしてお前に触れたかったんだ」
 熱く囁く声にハボックもロイを抱き返して言った。
「オレも…オレもっ」
 それだけ言うのが精一杯で、言葉に出来ない想いをハボックはロイを抱き締める腕に込める。そうして暫く互いの鼓動を聞きながら抱き締めあっていたが、やがてロイが体を起こすと言った。
「すまない、中に出してしまった。後始末をしないと」
「あとしまつ?」
 ロイの言葉にハボックが不思議そうな顔をする。男同士のセックスの知識など持ち合わせていないのだろう、ロイはクスリと笑ってハボックの額にキスを落とすと言った。
「抜くぞ」
 そう言うなりハボックの返事を待たずに、熱を吐き出したままハボックの蕾に埋めていた楔をゆっくりと引き抜いていく。ずるずると濡れた内壁をこすりながら出ていく楔にハボックは目を見開いた。
「ヒ……あ…」
 一度達したとは言えまだ硬度を残す楔の動きにハボックは目を見開きロイの肩に爪を立てる。ぬぷんと楔が抜けてしまうと詰めていた息を吐き出し、ハアハアと浅い呼吸を繰り返した。
「大丈夫か?ハボック」
「た、ぶん………あ、なんか変な感じ…」
「変?腹が痛いか?」
「そうじゃなくて……」
 聞かれるまま答えようとして、ハボックは言おうとした言葉の生々しさに気づいて思わず口を噤む。促されるように名を呼ばれてハボックは視線を泳がせて答えた。
「尻の穴がスーカスーカするっつうか、なんか開いてひくついてるっていうか…」
「…ッッ!!お前なぁ、私を煽るようなことを言うのはヤメロ」
「煽るって、アンタが聞いたんじゃないっスか」
「だからってそんな事は答えんでいいっ」
 聞かれたから答えただけなのに、とハボックは不満げに唇を尖らせる。ロイはそんなハボックに一つため息をつくと金色の前髪をかき上げた。
「私はお前が好きだからな、ほんのちょっとした言葉にだって煽られてしまうんだよ」
「…よく判んないっス」
 ムゥと唇を突き出すハボックに苦笑するとロイは言う。
「まあ、いい。とにかく後始末しないと、腹を壊したら困るからな」
 ロイはそう言うとハボックの体の横に手をついて身を起こそうとした。だが。
「あ、れ…」
 突然ぐらりと目が回ってロイは前のめりにハボックの上に倒れ込む。再び圧し掛かってきた男の体を受け止めてハボックは目を丸くしてロイを呼んだ。
「たいさ?」
 だが、そう呼んでも己の上に圧し掛かってきたきりピクリとも動かないロイに、ハボックはギクリとしてロイの体の下から抜け出した。
「たいさっ?…たいさっ!!」
 ロイの体を仰向けに反せば、赤らんだ顔で荒い呼吸を繰り返すその姿にハボックは目を見開く。
「あ…熱」
 初めて体を合わせたことに夢中になってロイの体調をすっかり失念していた事を、今更ながらに気づいてハボックは唇を噛んだ。とにかくこのままにしておくわけにはいかないとベッドから降りようと身を動かしたハボックは、その途端蕾から零れた残漿にゾクリと身を震わせる。ベッドの脇に下ろした脚は力が入らず、ハボックはベッドから落ちるようにしてヘナヘナと座り込んでしまった。
「うそ…どうしよう…」
 後始末とロイは言っていたが正直どうすればいいのか判らない。熱を出しているロイのこともこのままにしておくわけにはいかない事くらいよく判っていたが、自分の体を支えることすらままならない今の状態ではロイに服を着せてやることすら出来そうになかった。
「たいさっ、たいさってば!」
 せめて自分で服を着て貰えればと思ってハボックはベッドの下からロイを呼ぶ。だが返ってきたのは苦しげな呼吸ばかりでハボックは床にヘたり込んだまま途方に暮れてしまった。

 暫くそうしてロイの呼吸を聞きながら座り込んでいたハボックだったが、ベッドの縁を掴むと必死に体を起こす。なんとかベッドの縁に体を預けると、ロイの体をブランケットで包み込んだ。そうしてホッと息を吐いた途端、とろりと脚を伝って零れていく感触を唇を噛み締めて耐えたハボックは、泣きそうに顔を歪めた。
「どうしよう、後始末ってどうやんの…?」
 こんな事なら誰かに聞いておけばよかった。そんな埒もないことを思っても何の解決にもならず、ハボックは脚を伝って滴り落ちる白濁に小さく体を震わせた。

 ブレダは冷蔵庫からビールの缶を取り出すとそれを手にドサリとソファーに座り込む。今日からはまた一人の生活が始まるのだと思うとなんだか寂しい気もした。
「保護者は卒業しろって中尉に言われたろうが」
 そう呟いてビールを喉に流し込んだ時、電話のベルが鳴ってブレダは顔を顰める。こんな夜遅い時間にかかってくる電話はろくなものじゃないと思いながら、居留守を使うわけにもいかず、ブレダはビールを手にしたまま受話器を取った。
「もしもし?」
 受話器に向かってそう言ったが向こうからの返事がない。ブレダはもう一度「もしもし」と言って暫く待ったが何も返事がない事にため息をつくと誰とも判らぬ相手に向かっていった。
「用がないなら切るからな。それから悪戯電話なら二度とかけてくんな」
 ドスの利いた声でそう告げると受話器を置こうとする。するとその時聞こえてきた微かな声にブレダは慌てて置こうとした受話器を耳に当てた。
『……ダ…っ』
「…?」
『…ブレ…ダっ』
「…?!ハボ?!ハボックかっ?」
 消え入りそうな声で己を呼ぶ声にブレダは友人の名を口にする。泣いているような気配を察して、ブレダは受話器を耳に押しつけると言った。
「ハボだなっ?どうしたっ?」
『ブレダぁ、オレ、どうしていいのか判んない…ッ』
 ヒックと泣きじゃくる声に、ブレダはそこにいるはずのもう一人の男の名を出した。
「大佐は?そこにいるんだろ?一体何やってんだよっ』
 今頃二人は両想いになって幸せな時間を過ごしているのだとばかり思っていた。それがいきなり友人の泣き声を聞かされてブレダはムカムカしながらそう言う。するとハボックが小さな声で答えた。
『大佐なら熱出して寝てる…』
「えっ?熱?!」
『なぁ、ブレダぁ』
 酷い熱なのだろうかと聞こうとする前にハボックがブレダを呼ぶ。何だと澄ましたブレダの耳にハボックの声が飛び込んできた。
『セックスしたあとの後始末ってどうやんの?』
「………は?」
 ハボックの言葉がすぐには脳味噌に届かずブレダは間の抜けた声を上げる。そうすれば焦れたようにハボックが言った。
『大佐、オレん中に出した後、後始末しなきゃって言ってたんだけど、それする前に熱ぶり返してぶっ倒れちゃって……後始末ってどうすんの?ブレダ…っ』
 涙声でそう問いかけてくるハボックにブレダの思考回路が考えることを拒絶する。それでも縋るように名を呼ばれればブレダは目を泳がせて答えた。
「そりゃお前、入れられたもん、出すんだろ?」
『出すってどうやって?』
「どうやってって、それはだなぁっ」
 知識としてはとりあえず持っているものの自分だってやったことがあるわけではない。答えに詰まって躊躇っているとハボックが半泣きになって言った。
『ブレダ、こっち来てくんない?大佐も服着せてないし、オレ一人じゃどうにもなんないっ』
「えっ?!」
 ハボックの言葉にブレダは思わず手にしたビールの缶をぐしゃりと握り潰してしまう。いくら友人の頼みとは言え聞けることと聞けないことがあると、なんとか言い訳を口にしようとした時、受話器の中から弱々しく自分を呼ぶ声がしてブレダは天井を仰いだ。
「…判った!すぐ行くから待ってろ!」
 ブレダはそう言うと受話器を置く。はあああ、と肺の中の空気を全部吐き出す勢いでため息ついて片手で顔を覆った。
「なんで俺が大佐とハボのエッチの後始末しなきゃなんねぇんだよ……」
 ブレダはそう呟くと立ち上がり、よろよろとアパートを出ていった。


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