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| レヴィアタンの焔 第二十一章 |
| 「どうも長いことご迷惑おかけしましたッ」 ハボックはそう言って司令室の面々に向かって頭を下げる。 「おかげで余計な仕事が増えて大変だったぜ」 とブレダ。 「無事復帰されてなによりです」 とファルマンが言えば 「元気になられてよかったですッ」 とフュリーが眼鏡の奥の目を細めた。 「護衛の仕事は様子を見てからお願いするわ、少尉」 よかったな、おかえり、と肩を叩きながらハボックの復帰を喜ぶ面々を見ていたホークアイがそう言う。その言葉にハボックがハッとして言った。 「平気っス!ちゃんと今日から出来ますからっ!」 早口で言うハボックにホークアイは優しい笑みで答える。 「少尉。中途半端な仕事は困るのよ。判るでしょう?昨日退院して今日からすぐ、というのは無理があるわ」 その言葉にハボックはキュッと唇を噛んだ。それからホークアイをまっすぐに見つめて言う。 「一週間で戻します、中尉」 そんなハボックにホークアイが頷いた時、司令室の扉が開いてロイが入ってきた。 「たいさ」 パッと顔を輝かせるハボックにロイは薄く笑うとその金色の頭をぽふぽふと叩く。 「おかえり、ハボック」 そう言うロイにハボックは嬉しそうに目を細めた。ロイはすぐさまホークアイと今日の予定を話し合いながら執務室へと入っていく。その背をじっと見つめていたハボックはロイの姿が扉の向こうに消えるとムンと手を握り締めた。 「訓練いって来る」 「最初から飛ばし過ぎんなよ」 「判ってるよッ」 ブレダの声に答えながらハボックは司令室を飛び出していった。 「ハボック、今夜はあいているんだろう?」 終業時刻も間近になった頃、ロイが執務室から出てきて言う。ハボックは書類に書き込んでいたペンを止めると顔を上げた。 「え?ええ、あいてるっスけど」 なんだろうと不思議そうな顔をするハボックにロイは苦笑する。 「なんだ、忘れたのか?退院したら祝ってやると言ってただろう?」 「あ」 そう言われてハボックは目を丸くした。そう言えば風邪で退院が延びたとき、病室に来たロイに自分の気に入りの店の名前を書いた紙を渡した事を思い出す。ハボックは困ったように首を傾げると言った。 「えと、大佐。ホントに無理しなくてもいいっスよ?大佐だって…その、色々プライベートで予定もあるだろうし」 遠慮がちに病院で言ったのと同じことを繰り返すハボックにロイはやれやれというようにハボックの髪に手を伸ばして言う。 「ハボック。私は自分がしたくないことはしない主義だよ。それは知っているだろう?」 ロイは遠慮がちに自分を見つめてくる空色の瞳に向かって微笑んだ。 「お前が元気になって本当に嬉しいんだ。祝わせてくれてもいいだろう?」 そう言ってくしゃりと金色の髪をかき混ぜるロイに、ハボックは幸せそうに笑った。 「なかなかいい雰囲気の店だな」 ハボックの気に入りだというその店に入ってロイが言う。ハボックは馴染みの主人に幾つか料理を注文するとロイを見た。 「ホントによかったんスか?この店で」 「お前の気に入りの店なんだろう?」 「そうっスけど」 「その店を教えてくれて嬉しいよ、ハボック」 そう言って笑うロイにハボックはドキドキとして目を伏せる。丁度その時アルコールのグラスが運ばれてきて、二人はグラスを手に取るとにっこりと笑った。 「退院おめでとう、ハボック」 「ありがとうございます、大佐」 その言葉と同時にグラスを軽く合わせて二人は口をつける。アルコールの冷たさがドキドキと火照った体を冷やしたかと思ったが、次の瞬間には腹の中から熱くなるような気がしてハボックは顔を上げられずに手の中のグラスを見つめた。 (やだな。なんでオレ、こんなにドキドキしてんだろ) ロイがまっすぐに見つめてくるのはいつもの事だ。だが、今夜はいつになくその黒い瞳に宿る光が強いような気がしてハボックは顔を上げられずに視線を彷徨わせた。 「もう、傷はすっかりいいのか?」 「あっ、はいっ、もうすっかり大丈夫っス」 そう尋ねられてハボックは慌てて顔を上げると答える。その途端、その強い光に囚われてハボックは顔を背けることも出来ずにロイの顔を見つめた。 「ハボック…」 低く囁くように名を呼ばれてハボックの背をゾクリと何かが駆け抜ける。逃げ出したいと思った丁度その時、ウェイターが料理の皿を運んできて、ハボックはあからさまにホッと息を吐くとロイに言った。 「これっ、この店の一番のおススメなんス。食べてみてください」 ハボックはそう言うと皿を取り上げロイの分を取り分ける。ロイは勧められるまま料理を口に運ぶと言った。 「美味いな、確かにこれはおススメ料理だ」 目を輝かせてそう言うと次々と料理を口にするロイにハボックも笑う。自分の分を取り分けて食べながらロイをチラリと上目遣いに見た。 (やべ……ホントドキドキして止まんね…) 次々に運ばれてくる料理を食べ、他愛のない会話を続けながらハボックは胸をときめかせる自分をどうする事も出来ない。早くこの時が終わって欲しいような、ずっと続いて欲しいような、どうにも揺れ動く気持ちを抱えながらハボックは食事を続けていた。 食事を終えてアパートに戻るとハボックはボスンとベッドに身を投げる。アルコールの所為だけでなく紅くなった頬をつめたいシーツにこすり付けてホッと息を吐いた。 あの時二人きりで食事をして、こんな幸せはもうないだろうと思っていたのに今日また同じように二人で過ごすことが出来て、ハボックは嬉しくて小さく笑う。ロイがたとえただの部下としてだとしても、気にかけてくれたのが嬉しくて仕方がなかった。 「たいさ…」 フワフワと舞い上がって過ごした時間は、正直何を話していたのかよく覚えていなかったがそれでもハボックの胸を温かくして。 「明日からまたいっぱい訓練して、早く護衛の仕事に戻って……大佐に喜んでもらえるように頑張らなくっちゃ」 せめて部下としてでも少しでもロイの傍にいたくて。 ハボックは幸せそうに笑いながらゆっくりと眠りに落ちていった。 |
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