狂愛  第七章


「遅いッ」
「すみませんっ、今すぐ回しますからっ」
 出来るだけ早くロイを追ってきたつもりではあったが、それでも先に玄関についてしまったロイが怒鳴る。ハボックはもつれそうになる足を叱咤して車を取ってくると、ロイが待つ玄関先につけた。
「お、待たせ、しました」
 運転席から下りたハボックがよろよろと車を回ってロイのために扉を開ける。辛そうに肩で息をしているハボックを一瞥して、ロイは車に乗り込んだ。ハボックは扉を閉めると運転席に戻りハンドルを握る。そうして鏡越しにロイを見て言った。
「まっすぐ家で…いいんスか?」
 出来ることならそうして欲しい。少しでも早くアパートに帰って体を休めたいと、ハボックはそう思ったが、ロイの言葉は期待とは真逆のものだった。
「いや、このまま家に帰っても食うもんがないんでな。ケーズ・マートに寄ってくれ」
「………判りました」
 ハボックは答えてアクセルを踏み込む。落胆の溜め息を噛み殺してハボックは車を走らせると、言われた店の駐車場に車を乗り入れた。エンジンを切り、運転席を下りてロイのために車のドアを開ける。それだけの事で息が上がりハボックは肩で息を繰り返していた。
「…どうした?随分疲れているようだな。今日は演習もなかっただろう?」
 ハボックの体調が優れない理由など判りきっているにも関わらずロイは聞く。ハボックはロイの目をまっすぐに見て答えた。
「別に疲れてなんてねぇっス」
 明らかに強がりと判る返答にロイはクッと笑う。だが、それ以上は何も言わずに車から降りて歩きだした。
 次々と食料品や飲料を買ってはハボックに持たせる。普段であれば軽々と持てるであろう荷物も、今のハボックには鉄の塊よりも重かった。
「ハボック!次の店に行くぞ!」
「は、はい…」
 壁に寄りかかって体を休めていたハボックは、ロイの声に慌てて体を起こす。その拍子にクラリと目眩がして、ハボックは倒れそうになった。
「……ッ」
 自分の体の事より落としそうになった荷物を抱え込むハボックを、ロイの腕が咄嗟に支える。地面に倒れるとばかり思っていたハボックは何時までたっても痛みを感じないことに、不思議そうに伏せていた目を上げた。
「……え?たいさ…?」
 間近に迫る端正な顔をハボックが不思議そうに見る。ロイは思い切り舌を鳴らすと、ハボックの体を支えなおした。
「しゃんとしろッ、フラフラしてるんじゃないッ!」
 ロイはそうハボックを叱咤するとハボックから手を離す。呆然として見つめてくる空色の瞳にもう一度舌を鳴らすと苛々として言った。
「家に帰るぞっ」
「え…?次の店に行くんじゃ?」
「気が変わった」
 ロイは短くそう答えて駐車場に向かって歩き出す。何故気が変わったのかは判らなかったが、ハボックはホッと安堵の溜め息をつくと出来る限り急いでロイを追った。
 荷物を車のトランクに入れるとハボックは急いで運転席に座る。先に車に乗っていたロイをチラリと見て、ハボックはアクセルを踏み込んだ。賑わう夜の街を走り抜け住宅街に入り、ロイの家へと辿り着く。ハボックは門の前に車をつけるとロイのためにドアを開けた。
「荷物を運び込んだら車を裏に停めてこい」
「えっ?」
 車から降りるなりそう言うロイにハボックは目を見開く。いくら何でも今日はここでお役御免だろうとばかり思っていたハボックが咄嗟の事に返事を返せないでいると、苛々したロイが言った。
「返事はどうした、ハボック」
「えっ、でも、オレ、今日は……」
「今日は、なんだ。私の言ったことが判らなかったのか?荷物を運び込んだら車を裏に停めてこいと言ったんだ。返事は?」
 ジロリと睨んでくる黒い瞳にハボックは目を伏せる。
「アイ・サー」
 と、囁くように答えるハボックにロイはフンと鼻を鳴らして家の中に入ってしまった。
 ハボックはロイが消えた先をじっと見つめていたが、やがて一つため息をつくと買い込んだ荷物を家に運び込む。それから車を裏の駐車スペースに停めて家に戻ってきた。
「失礼します」
 ロイの家に来たのは初めてではなかった。送迎は勿論だが、ロイを送ってきた時に本やら資料やらを書斎に運んだりしたことがあるのだ。だが、個人的に訪れた事はなく、ハボックは落ち着かなげに部屋の中を見回した。
「ハボック、腹が減った。さっき買ってきたものをテーブルに並べてくれ」
「は、はい!」
 ロイの声にハボックは慌ててキッチンに駆け込む。冷蔵庫の中から取り出した氷をグラスに放り込みながらロイが言った。
「お前も飲むか?」
「いえ、オレは結構っス」
 言って首を振るハボックをチラリと見上げたロイは、何も言わずにグラスを手にリビングへと行ってしまう。ハボックが急いで手を洗って買ってきたデリと皿を持ってリビングに行けば、ロイはウィスキーを注いだグラスを片手にソファーに座っていた。
「こっちのテーブルに並べちまっていいんスか?」
 そう尋ねればロイが頷く。ハボックはデリの蓋を開けると皿の上に綺麗に盛りつけロイの前に並べた。
「どうぞ」
 取り皿を置いて促すハボックにロイはテーブルの上を見る。一人分のセッティングしかされていないそれに、僅かに顔を顰めた。
「お前の分は?」
「え?だってこれ、大佐が食うつもりで買ったんでしょ?」
「一人でこんなに食えるか。お前も一緒に食え」
「でも…」
 困ったように俯くハボックにロイは声を荒げる。
「さっさともう一人分持ってこい!」
「はっ、はいっ」
 その声にハボックは慌ててキッチンからもう一組食器を持ってくる。ロイの向かいにそっと腰を下ろすと、おずおずと言った。
「い、いただきます……」
 そう言って手を伸ばすともそもそと食事を始める。そんなハボックをロイは黙ったままじっと見つめていたが、唐突に尋ねた。
「予定でもあったのか?」
「え?」
「この後。約束でもあったんじゃないのか?」
「別に…何もないっスけど」
 そう答えるハボックをロイはじっと見つめる。何故だが苛々として言った。
「ブレダ少尉と約束があったんだろう?」
「ブレダと?ありませんよ、約束なんて」
 どうしてロイがそんな事を言い出したのか判らないまま、ハボックは正直に答える。不思議そうに見つめてくる空色の瞳を睨みつけてロイは言った。
「随分と仲がいいようだな、いつもああして大事にして貰ってるのか?」
「ブレダとはガキの頃からの付き合いっスから。別に大事になんてして貰ったことないっスけど、オレ、要領わりぃからブレダがいっつも助けてくれて」
 そう言うハボックの言葉にブレダと話すハボックの姿が浮かんだ。屈託なく笑うハボックの目に浮かぶのは無条件の信頼だ。そう思った瞬間、ロイの中に説明のつかない怒りが込み上げてきた。
「それで?いつも慰めて貰ってるのか?優しく抱き締めて貰って。ああ、キスもしてくれるのかな、ブレダ少尉は。お前のイヤラシい穴に突っ込んでたっぷり飲ませてくれるのか?」
 嘲りを込めてそう言えば、ハボックがポカンとしてロイを見る。数秒おいてやっとロイの言った意味が判ったのだろう。カッと頬を染めて言った。
「ブレダとはそんなんじゃありませんッ!アイツはただの幼馴染みで大切な友人です!」
「どうだかな、お前の善がりぶりはとても初めてとは思えなかったぞ。これまで散々ブレダ少尉に可愛がってもらってきたんじゃないのか?」
 ハボックが男に抱かれた経験があるかどうかなど、抱いた自分が一番よく判っている。だが、ロイはどうしてもそう言うのをやめることが出来なかった。
「……オレ、大佐以外の男に抱かれた事、ないっス。ブレダは大切だけど、ただの友人です。何を誤解してんのか判んないっスけど、オレが…オレが好きなのは、大佐だけっス!」
 ロイの言葉にハボックが声を荒げる。ハボックが自分を好きだと言ったことが嬉しいと同時に、ブレダを大切だと言った事に胸の奥がチリチリと痛んで、ロイはハボックをじっと見つめた。
「私を好き?私だけが?本当に?」
 そう聞かれてハボックが頷く。ロイは昏い瞳でハボックを見つめながら言った。
「服を脱げ。自分で解して自分で挿れるんだ」
 その言葉にハボックが目を見開く。だが、何も言わずに立ち上がると服を脱ぎ捨てロイの前に立った。
「氷、一個貰ってもいいスか?」
「好きにしろ」
 そう言われてハボックはロイのグラスから氷を一つ取り出す。ロイのすぐ側に膝と手をついて四つん這いになったハボックにロイが言った。
「お前の食い意地の張った穴がよく見えるようにするんだ」
 ロイの言葉にハボックが一瞬動きを止める。だが、何も言わずに尻を床につけてペタンと座る姿勢に変えると、脚を大きく開き奥まった蕾に氷を這わせた。
「んっ」
 冷たさにハボックがキュッと唇を噛む。だがそのまま蕾を撫でるように氷を滑らせれば、体温で溶けた氷が蕾を濡らした。時間を置かずに挿入を繰り返されたせいでまだ腫れの残る蕾にハボックは指を一本沈めていく。ハッハッと浅い呼吸を繰り返しながら根本まで埋めると、ゆっくりと動かし始めた。
「く……は、ア…ッ、………んふ…」
 クチクチと湿った音を立てながらハボックは蕾を掻き回す。自ら男を受け入れる為にこんな事をしているのが恥ずかしくて、ハボックはギュッと目を閉じる。それでもロイの視線を感じればそれだけで体が熱くなり、ハボックの中心は徐々に頭をもたげ始めた。
「イヤラシい奴だな。もう感じてきたのか?」
「…ッ!」
 言われてハボックがヒュッと息を飲む。だが、快楽に従順な体は詰る言葉にすら反応して一層固さを増すと、タラタラと蜜を零し始めた。
「あ…ふ、ん……ッ、ああ……」
 熱い吐息を零しながらハボックは沈める指を増やしていく。ゆらゆらと尻を揺らめかせ喘ぎながら男を迎え入れる準備をするハボックの姿にロイはクスクスと笑った。
「イヤラシいな……。お前の中、真っ赤に熟れて物欲しげにヒクついてるぞ」
「ああ……言わないで…っ」
 低く笑うロイの声にハボックはそう言って閉じていた目を開ける。食い入るように自分を見つめる黒い瞳を見れば、それだけで腰が熱く疼いた。
「たいさ……」
 ハボックはうわ言のようにロイを呼ぶと、蕾に指を沈めたまま這うようにしてロイに身を寄せる。蕾をかき混ぜているのとは反対の手でソファーに座るロイのズボンをくつろげると楔を取り出した。まだ反応を示し始めたばかりのそれに愛しげに口づけると口の中に迎え入れる。片手で蕾を掻き回しながら楔をしゃぶるハボックの姿にロイはうっとりと笑った。
「ん……ん、くぅ…ッ、んっんっ」
 じゅぶじゅぶと夢中でしゃぶるハボックの好きにさせていたロイは、やがて己をハボックの唇から抜く。涎と先走りの蜜で唇をヌラヌラと濡らして見上げてくるハボックにゾクゾクしながら言った。
「今日は下の口に飲ませてやると言っただろう?もういいから挿れろ」
 そう言われてハボックは蕾に沈めていた指を引き抜く。立ち上がるとソファーに座っているロイの腰の上に跨るように脚を広げた。ヒクつく蕾をそそり立つロイの楔にそっとあてがいロイを見る。見上げてくる黒い瞳をじっと見つめたままゆっくりと体を下ろしていった。
「あ」
 くちゅ、と音を立てて熱い塊が熟れた蕾を押し開く。徐々に熱い肉に飲み込まれていく感触を楽しんでいたロイだったが、不意にハボックの腰を掴むとグイと引き下ろした。
「アア───ッッ!!」
 ズブズブと一気に貫かれてハボックの唇から悲鳴が迸った。


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