狂愛  第四章


 荒く息を弾ませてぼんやりと見上げてくるハボックの頬をロイはそっと撫でる。涙に濡れた睫が思いの外長い事に気づいて、ロイは唇を寄せた。
「ハボック……」
 そう低く呼べばピクンとハボックが震える。ロイはハボックの耳に舌を這わせながら囁いた。
「司令部に戻るよ、いい加減帰らないと中尉に怒られてしまう」
 その言葉にハボックの瞳が見開かれる。涙の膜の中で揺れる空色にロイはうっとりと笑って言った。
「可愛かったよ、ハボック…」
 そう言えば涙の膜がハボックの頬を筋になって零れ落ちる。ロイはその筋を舌で辿って言った。
「泣くな、すぐまた可愛がってやるから」
 ククッと笑って言うとロイはハボックから身を離す。縋るように見上げてくるハボックの髪を撫でると、ロイはハボックを置いて司令部に戻ってしまった。


「ハボックは?まだ来てないのか?」
 翌朝。司令室に入ってきたロイは、主のいない机を見て言う。その机の向かいに座っていたブレダが書類をめくる手を止めて言った。
「いやそれが、昨日気になったんで帰りにちょっとアパートに寄ったんですけど、ハボの奴酷い熱出して寝込んでたんですよ。大佐が行った時はそんなじゃなかったんでしょう?」
 そう尋ねられてロイは曖昧に頷く。
「喉痛めちまってるみたいで声もまともに出ないし。でも、医者を呼ぼうしたらただの風邪だから必要ないって言い張るんで、市販の風邪薬飲ませて寝かせたんですけど」
 流石にそのまま放っておけずに泊まり込んでしまったと苦笑するブレダが、ロイにはなんだか面白くなくて眉間に皺を寄せた。
「とりあえず今日も帰りに寄ってみるつもりですよ」
 その言葉にロイはますます皺を深めて執務室に入っていった。


 その夜、ロイはなかなか誘いに乗らなかったのを漸く口説き落とした未亡人の女性とデートだった。ひと月前に夫を亡くしたばかりで、まだそんな気持ちにはと後込みする未亡人を口説くのは楽しかったし、今夜はその彼女と楽しくスリリングな時間を過ごせると楽しみにしていた筈のロイに、だが未亡人との会話もその後の甘い時間も面白さの欠片もなく、ロイは白く柔らかい女性の体から身を離すとため息をついて立ち上がった。
「すみませんが急用を思い出しました」
 驚いたように見上げてくる未亡人にロイはそう言ってそそくさとホテルを出る。そうしてそのままハボックのアパートへと向かった。夜の街を足早に歩けば苛立ちが募ってくる。ロイが辿り着いたアパートを見上げた丁度その時、ハボックの部屋と思しき窓が開いてブレダが顔を出した。中のハボックに話しかけているのだろう、二言三言返したブレダは再び中に引っ込むとピシャリと窓を閉める。それをじっと見つめていたロイは知らず爪が刺さるほどギュッと手を握り締めていたのだった。


 ガチャリと扉を開けばその音にパッと顔を上げたハボックと目が合う。ハボックはじっと見つめてくる黒い瞳を見つめ返して言った。
「おはようございます、大佐。昨日は休んでしまってすんませんでした」
 そう言う声はまだ少し掠れている。ロイはそんなハボックを何も言わずに見つめていたが、フイと目を逸らして執務室の扉へと向かった。扉を開けようとして聞こえたブレダの声に肩越しにそっと振り向く。そうすれば笑いながら話すハボックとブレダの姿が見えてロイはムッとして言った。
「ハボック」
「あ、はい」
 呼ばれてハボックはブレダに軽く手を上げて立ち上がる。そのハボックの肩をポンポンと叩いてブレダが席に座るのを見て、ロイは低い声で言った。
「早くしろ」
 そう言いながらさっさと執務室に入りワザとのように扉を閉めてしまう。呼んでおきながら鼻先で扉を閉められてしまって、ハボックは一瞬迷った末ノックをしないで扉を開けた。
「大佐」
「きちんとノックをしろといつも言っているだろう」
 中に入った途端そう言われて、ハボックは立ち竦む。それでもキュッと唇を噛んで言った。
「すみません、呼ばれたからいいと思って」
 そう言って大きな体を縮めるハボックの腕をロイはグイと引き寄せる。ハッとして見つめてくる空色を見上げてロイは言った。
「ブレダ少尉に随分と面倒見て貰ったようだな」
「あ、はい……。昔っからオレが調子悪いと気にして見に来てくれてたから」
 今回も、と言うハボックにロイは不機嫌そうに顔を顰める。
「優しく看病して貰ったと言うわけか」
「看病、って…。食うもん買ってきてくれただけっス。あと薬と」
 ハボックはロイの不機嫌の理由が判らないままにそう言う。ロイの顔色を窺うように見つめながら続けた。
「医者呼ぶって言われたけど、誰にも見られたくなかったし、でも薬がなかったから」
 もごもごと小声で言って俯くハボックにロイは僅かに目を見開く。それからニヤリと笑って言った。
「見られたくなかったのは私に抱かれた痕があるからか?」
「大佐っ」
 カッと顔を赤くするハボックの体を執務机に押さえつけて、ロイはハボックの軍服のボタンを外す。黒いTシャツをめくり上げれば、白い肌に幾つもの紅い花びらがくっきりと浮かび上がっているのが目に飛び込んできた。
「どうして見られるのが嫌だったんだ?綺麗な花びらじゃないか」
 ロイはそう言いながら浮かび上がる花びらを指の腹できつく擦る。ハボックはビクリと体を震わせて言った。
「だって、恥ずかしい…ッ」
「何故?別に恥ずかしがるようなものじゃないだろう?」
 ロイはそう言いながらハボックの乳首をキュッと摘む。いきなりそんなところを摘まれて、ハボックは上げそうになった悲鳴を何とか飲み込んで言った。
「やめてくださいっ、離してッ」
 ハボックはそう言ってロイを押し返そうとする。だが、いつの間にか完全に机に預ける形に押さえ込まれた体は、圧し掛かるロイを撥ね除けることが出来なかった。
「たいさ、離してくださいッ」
 圧し掛かる男を見上げてハボックはもう一度言う。だが、ロイはハボックを離すどころかねっとりと乳首に舌を這わせた。
「アッ、や…ッ」
 ビクンと体を震わせるハボックにロイはうっすらと笑みを浮かべながら舌を這わせていく。肌の上を滑る濡れた感触にハボックは必死に身を捩った。
「たいさっ、誰か来たら…ッ」
「別に構わん」
 怯えるように扉に目を向けるハボックにロイは平然と言い放つ。その言葉にギョッとしたハボックの抵抗が一瞬止まったのを見て、ロイは素早くハボックのズボンの中に手を滑り込ませた。キュッと中心を握られて、ハボックはヒュッと息を飲んだ。
「や、やだっ」
 カアッと顔を紅くしてハボックは中心を握るロイの手首を掴む。だが、やわやわと扱かれれば手首を掴む手から力が抜けてハボックは弱々しく首を振った。
「たい、さ…おねがい、やめて……ッ」
 泣きそうな顔で懇願するハボックを見下ろしてロイはゾクゾクする。その懇願を聞き入れるどころか、ロイはハボックのズボンに手をかけると下着ごと引きずり下ろした。
「ヤダっ!」
 慌てて引き上げようと手を伸ばしてくるのを見て、扱く手に力を込めればハボックの体から力が抜ける。ロイは涙ぐみながら息を荒げるハボックの顔を見つめながらハボックを追い上げていった。
「だめ…っ、出る…ッ!」
 ブルブルと体を震わせてハボックが囁く。ロイの手の中で腹に着くほどそそり立った楔はびくびくと震えて今すぐにも弾けそうに見えた。ロイは机の上に手を伸ばすと書類を纏めるための綴じ紐を取る。そうして手にしたそれをハボックの楔にグリグリと巻き付けてしまった。
「あ……あ…そんな…ッ」
 弾ける寸前の熱をせき止められてハボックは目を見開く。ロイは小刻みに震えるハボックの体から身を離すとぐったりと机に身を預けるハボックを見下ろした。


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