そのはち


「こりゃまた見事なひっかき傷ですな、少尉」
 クックッと笑いながら軍医はハボックの頬の傷に消毒液がたっぷりと染み込んだ脱脂綿を当てる。痛さにヒュッと息を飲んだハボックに構わず手早く手当てを済ませると大きなバンソコウをペタリと貼り付けた。
「一応化膿止めを出しておきますから。また明日消毒に来てください」
「ども」
 笑って言う軍医に軽く頭を下げたハボックはワゴンの上に並べられた包帯に目を留める。カルテに書き込んでいる軍医を見て言った。
「先生、この包帯一つ貰ってもいいっスか?」
「構わんがどこか他に怪我をしたのかね?」
「オレじゃないんスけど」
 ハボックは言葉を濁して答えると包帯を一つ取って医務室を出る。パタンと閉じた扉の脇を見ればロイが壁に寄りかかって立っていた。
「ロイ」
 呼ぶ声にロイはビクンと大きく体を震わせる。おずおずと見上げれば頬に大きなバンソコウを貼ったハボックが見下ろしていた。
「……ごめん」
 痛々しい様にロイは黒い瞳を大きく見開く。呟くように一言言った途端、ボロボロと泣き出すロイの前にハボックは跪いた。
「ロイ、腕かして」
 そう言いながらハボックはロイの腕を取ると傷の様子を見る。それから医務室から貰ってきた包帯をくるくると巻き付けた。
「傷は殆ど治ってるけど、まだ皮膚が柔らかいから一応巻いとくっスね」
 ハボックは包帯を巻き終えた腕を軽く叩いて言う。涙を零して見開く瞳を指で拭って言った。
「ロイが悪いんじゃないっスよ。いきなり尻尾握ったオレがいけないんスから」
 オレの方こそごめんなさい、そう言ってそっと抱き締めてくる腕に、ロイは益々大泣きしてしがみついたのだった。


2010/04/06


→ そのきゅう
そのなな ←