そのろく


 演習場につけば装備のチェックを済ませた部下達がわらわらと散っていく。それを見ていたロイがハボックを見上げて言った。
「何をしてるんだ?」
「今日はテロリストのアジトに突入する訓練をするんスよ」
「ふぅん、で、私は何をすればいいんだ?」
 そう聞かれてハボックはげんなりと肩を落とす。ロイの前にしゃがみ込むと黒い瞳を見つめて言った。
「ロイはそこの隅っこでじっとしててください。危ないっスから」
「冗談だろう?私はこの部隊の総隊長だぞっ」
「はあっ?何言い出すんスか、アンタ」
 演習場に連れていってもいいが、自分の言うことを聞くのが条件だった筈だ。だが、バリケードやらなにやらが設置された演習場の雰囲気に、ロイは俄に闘争心を刺激されてしまったらしかった。
「あのね、ここは子供の遊び場じゃないっスから」
「よし!みんな配置についたかっ?これからテロリストのアジトに突入を開始するっ!!」
「ちょ……ロイ!」
 突然大声を上げたロイにギョッとしたハボックが止める間もあらばこそ、ロイは高く積まれた荷箱の上に飛び乗る。そこで片手を高々と上げると長い尻尾をピンと伸ばして言った。
「総員突撃ッッ!!」
 そう言って手を振り下ろすロイに部下達が顔を見合わせる。困ったようにハボックを見て言った。
「いいんですか?隊長」
「いいわけないだろッ!ちょっと降りて!ロイっ」
「なんでみんな突撃しないんだッ」
 ハボックが伸ばした手をかわしてロイは荷箱の上でドンドンと足を踏み鳴らす。その拍子に荷箱の縁から足を踏み外して、ロイはバランスを崩した。
「危ないッ!」
 慌てて伸ばしたハボックの手もぎりぎり届かず、ロイは頭から地面に落ちていく。息を飲むハボックの前で、だがロイはクルリと回転すると両手両足をついて地面に降りた。
「おお、すげぇッ!」
「十点満点だッ!」
 息を飲んで見ていた部下達から賞賛の声が上がる。だが。
「〜〜〜ッッ!!」
 雨でぬかるんだ地面に飛び降りたロイは、はなから汚れていた体に上塗りするように全身泥まみれになってしまう。四つ足の姿勢のままふるふると震えるロイにハボックはがっくりと項垂れた。
「演習中止。軍曹、後頼むわ」
 ハボックはそう言うと泥まみれのロイを抱え上げて司令部の建物へと戻っていった。


2010/03/02


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