そのご


 小さな体を抱っこしたままハボックは詰め所に入る。そうすれば演習が始まるのを待っていた部下達が一斉にハボックを見た。
「隊長?なにゴミなんて───」
「ゴミじゃないぞ。ロイだ」
 何度か繰り返された問答で学んだハボックは、部下に皆まで言わせずそう口を挟む。そうすれば、わらわらと寄ってきた部下達が物珍しそうにロイのことを覗き込んだ。
「ロイ?…って、うわ、耳と尻尾がついてる!」
「女の子?男の子?いや、でも耳と尻尾があるなら猫?」
「それにしても汚いですねー。ゴミの中にいたんですか?」
 勝手なことを言いたてる部下達にロイが眉間に皺を寄せる。不用意に出した部下の手にロイは思い切り噛みついた。
「いってぇぇぇッッ!!」
「ロイっ!」
 悲鳴を上げる部下の手から、ハボックはロイを引き剥がす。部下の手にくっきりと浮かぶ小さい歯形にハボックはロイに言った。
「噛んだりしたらダメだろう、ロイ!謝りなさい」
 メッと睨めばツンとそっぽを向くロイの顔を覗き込んでハボックが言う。
「オレの言うこと聞くって言うからつれてきたんスよ。聞けないならブレダんとこで待っててもらうっス」
 そう言われてロイは慌てて噛みついた部下を見上げた。
「噛んで悪かった!びっくりしたんだッ」
 言って部下の手をぺろりと舐める。ザラリとしたその感触に、舐められた部下が飛び上がった。
「ヒャッ?!や、別に大したことないからっ!……って、その舌、やっぱ猫?」
 舐められた箇所を手でさすって呟く。ハボックはとりあえずロイが謝ったことで噛んだことにはそれ以上なにも言わずにロイを足下に下ろした。
「よし、それじゃあ演習を始めるぞ。ロイはここで待ってて……って、待つわけねぇっスよね」
「判ってんならさっさと行くぞッ」
 ロイは胸を反らして偉そうに言うと先に立って歩き出す。ハボック達はまるでロイにつき従うようにその後について演習場へと出ていったのだった。


2010/01/26


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