そのにじゅう


「ええと、ロイ。今日オレ達土建屋なんス」
 ハボックは一緒に小隊の詰め所までくっついてきたロイに向かって言う。ハボックのオーバースカートの裾をギュッと握って、ずっと上にある顔を見上げてロイは尋ねた。
「土建屋?」
 小首を傾げるロイを見下ろしてハボックが答える。
「ええ。ほら、このあいだすっげぇ大雨降ったっしょ?あれで川の堤防が決壊しちまったところがあって、急いで直さないと次雨が降ったらヤバイから。だからオレ達今日は一日ツルハシとスコップ持って作業しなきゃなんで、ロイは司令部で留守番しててくれますか?」
 きちんと説明してハボックはロイに司令部待機を提案する。だが、ロイは握ったオーバースカートを離さずに言った。
「嫌だ。私も一緒に行く」
「ロイ」
 きっぱりと言うロイにハボックは困ったように頭を掻く。ロイの目線にしゃがみ込んでハボックは言った。
「あのね、そんなとこついてきたって面白くないし、第一危ないっしょ?」
「面白いか面白くないかを決めるのは私だし、ちゃんと危なくないところで見ている」
「でも」
「絶対一緒に行く」
 潔いほどにきっぱりと言い切るロイにハボックは床に手をついてため息をつく。ハアアと肩を落とすハボックの金髪をロイがぽふぽふと叩けばハボックが顔を上げてロイを見た。
「ここにいれば中尉やフュリーが美味しいお菓子くれるっスよ?」
「私はお前と一緒がいい」
 なにを言っても首を縦に振らないロイにハボックが途方に暮れていると部下の一人が言った。
「いいじゃないですか、隊長。そこまで言うなら一緒につれていってあげれば」
「マイク」
「そうですよ。俺達みんなで気をつけてやっていればそんなに危なかないですよ」
「キム」
「そうそう。それにロイがいれば俺達もやる気が起きるし」
「サンダース」
 そうだそうだと言い出す部下達をハボックは呆れたように見回す。その時、すぐ背後から声が聞こえた。
「諦めて連れていってあげたらどうです?コイツらがこういうんですから」
「……軍曹まで」
 どうやら小隊の中で反対なのは自分一人らしい。ハボックはひとつ大きなため息をつくと立ち上がってロイに言った。
「判りました。じゃあ一緒に連れて行きますけど、くれぐれもオレの言うことは聞くように。変なとこ上ったり、崩れそうなとこに近寄ったり、そう言う事は絶対に───」
「ああもう、隊長、煩いですよ」
「そうそう、さ、行こうか、ロイ」
「行こう、行こう」
 部下達はハボックの言葉を煩そうに遮ってロイを囲む。中の一人がヒョイとロイを肩に担ぎ上げて歩き出せば、わらわらと男達が後に従った。
「まったくもう」
 その様にハボックがボヤけばロイが振り向く。その心配そうな黒曜石を見てハボックはやれやれと笑って手を挙げた。
「ロイ。ソイツらの監督頼んます」
「ッ、判った、任せておけ!」
 ハボックの言葉にパッと顔を輝かせニッコリと笑うロイに、ハボックは何故だかドキリとしたのだった。


2011/09/30


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