| そのじゅうきゅう |
| 「来なかった……」 ハボックはオムレツが載った皿を手に呟く。毎日のように遊びに来るオムレツが大好きな美人の黒猫をロイに紹介しようと、一晩中オムレツを置いた窓を開けておいたのだが、結局黒猫は姿を現さなかった。 「いつもならオムレツ焼いてるとすっ飛んでくるんスよ」 ハボックは夜中すかしてあった窓を閉めて皿を手に戻ってくる。朝食のフレンチトーストを前にきちんとテーブルに座って、ハボックを見上げてくるロイに向かって言った。 「この間喧嘩して足怪我して手当してやったことがあったんスけど……もしかしてそん時の怪我が酷くなったとか」 ハボックは大きなため息をつきながら椅子に腰を下ろす。どうしちゃったんだろう、と心配するハボックにロイが言った。 「そんなに心配しなくても、どこかに出かけているだけかもしれないぞ」 「どこに?」 「えっ?」 心配し過ぎないようにと、そう思って言えば即座に返されてロイは言葉に詰まる。困ったように視線をさまよわせて口ごもるロイにハボックは重ねて言った。 「どこに?猫ってそんなに行動範囲広いんスか?」 「それは……猫によるんじゃないか?」 「そうなんスか?」 しどろもどろに答えるロイにハボックはため息をつく。それからロイが食事に手をつけていない事に気づいて慌てて笑みを浮かべた。 「すんません、メシ、冷めちまいますね。どうぞ、食ってください」 「うん……」 言われてロイはいただきますとフレンチトーストを口に運ぶ。向かいの席で同じように食べ始めるハボックを見て、ロイは尋ねた。 「そんなに心配なのか?」 ロイの声にハボックは落としていた視線を上げる。真っ直ぐに見つめてくる黒曜石を見返して答えた。 「まあ、飼ってるわけじゃねぇし、姿が見えないからって大騒ぎする事じゃないんスけど……結構癒されるっていうか、一緒にね、メシ食ったり月見上げたり……だからいないとやっぱ気になるっていうか」 ハボックはそう言って照れくさそうにボリボリと頭を掻く。そんなハボックをどこか眩しそうにロイが見上げれば、ハボックが言った。 「ま、ロイの言うとおりどっか出かけてるのかもしれないっスね。帰ってきたらまた顔出してくれるっしょ。そしたらロイに紹介しますから」 「……うん」 「朝飯食いながらでなんですけど、今日の晩飯はなんにしましょうかね。あ、カレーなんてどうっス?ちゃんと甘口にしますから」 ニコニコと笑いながら話すハボックの声を聞くロイの尻尾が、テーブルの陰で元気なく揺れていた。 2011/09/07 |
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