そのじゅうろく


「ああ、もう、泣かないの、ロイ」
 上手く卵が割れずに大泣きするロイにハボックは半ば呆れて言う。卵で濡れた手をタオルで拭いてやるとその小さな体を抱き上げた。
「あのね、ロイ。最初から上手に出来る人なんていないんスよ?失敗してもいいんです」
「でもっ、でもっ!せっかく手伝おうと思ったのにッ」
 エグエグと泣きじゃくりながら言うロイにハボックは目を細める。目元をこする手をギュッと握って言った。
「もう手伝ってくれないんスか?オムレツ、出来てないっスよ?」
 そう言えばロイが涙に濡れた瞳を見開いてハボックを見る。ハボックはそんなロイに頷いて言った。
「卵割るの、手伝ってください、ロイ」
「……いいのか?」
「勿論スよ」
 ハボックは言って手のひらで涙に濡れた柔らかい頬を拭いてやる。そうして椅子の上に小さな体を下ろすと新しい卵をロイの前に置いた。
「頑張って、ロイ」
 見上げてくる黒い瞳にそう言えばロイがしっかりと頷く。目の前に置かれた卵を恐る恐る持ち上げたロイは、優しく卵をカウンターの表面に当てた。そうして入ったヒビに親指を当ててそうっと割り開く。パカッと軽い音がしたと思うと、まあるい黄身がぽとりとボウルの中に落ちた。
「出来たッ!!」
「やったっスね、ロイ」
「うんっ」
 おめでとう、と言われてロイは嬉しそうにボウルの中を覗き込む。まあるくこんもりと盛り上がった黄身を見てにこにこと笑えばハボックが言った。
「じゃあ、こっちのと併せてオムレツ作っちゃいましょうか」
 言ってハボックは潰れてしまった卵が入ったボウルを持ってロイのボウルに手を伸ばしてくる。ロイは慌ててボウルを背後に庇って言った。
「せっかく綺麗に出来たのに、潰しちゃ駄目だっ!」
「え?でも潰さないとオムレツには……」
「駄目ったら駄目ッ!!」
 言ってキーッと牙を剥くロイをハボックは呆れたように見つめたのだった。


2010/07/06


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