| そのじゅうご |
| 「まったくもう、風呂で走ったりするからっスよ」 ハボックはそう言いながらロイのおでこにペタンとバンソコウを貼る。強かに打ちつけて赤くなったおでこにそっと触れてハボックは言った。 「気持ち悪いとかぐらぐらするとかないっスか?」 「ちょっと痛いだけだ」 「ならいいっスけど、少しでも調子悪いと思ったら言ってくださいね」 そう言われてロイはコクンと頷く。ハボックは艶やかな黒髪をくしゃりとかき混ぜて言った。 「それじゃあ急いで食事の支度しちゃうっスから、ロイはいい子にして待っててください」 そう言ってキッチンに行こうとする背中にロイは慌てて声をかける。「なに?」と振り向いたハボックにロイはソファーから飛び降りて駆け寄ると、ハボックのシャツの裾を掴んで言った。 「手伝いたい。私も手伝っちゃ駄目か?」 「手伝ってくれるんスか?ロイ」 「うんっ」 コクコクと一生懸命頷くロイにハボックはにっこりと笑う。 「じゃあ手伝ってもらおうかな」 「何でも出来るぞっ、遠慮なく言ってくれっ」 そう言って目を輝かせて見上げてくる子供が可愛くてハボックは目を細めた。 「そうっスね、それじゃあまずレタスをちぎってくれます?それが済んだらミニトマトのヘタ取ってください」 「判った!」 ロイは元気よく答えると椅子によじ登って手を洗う。カウンターに置かれたレタスをわしゃわしゃと千切るロイに優しく頷いて、ハボックも夕飯の支度に取りかかった。 「卵っ!卵、割るっ!」 サラダを作り、スープを作って最後のオムレツに取りかかろうとすればロイがハボックの袖を引いて言う。卵を割ろうとして大きな手に卵を握ったハボックは、ロイを見下ろして言った。 「割れるんスか?卵」 「大丈夫っ、割ってみたいっ!」 ロイの口振りから初めての挑戦と知れる。ハボックはフムと考えて言った。 「まあ、何事も練習っスからね。オムレツなら綺麗に割れなくても問題ないし」 ハボックはそう言ってロイをひょいと抱き上げ、椅子の上に立たせる。ロイの前に卵とボウルを置いて言った。 「カウンターの平らなところに卵を軽く当ててヒビを入れてください。角で割っちゃ駄目っスよ、中に殻の粉やら欠片やらが入っちゃうっスから」 ハボックは言いながら卵をカウンターの表面に当ててヒビを入れる。卵を両手で包み込むように持つとヒビに親指を当てて割り開いた。 「次にヒビにこうやって親指を入れるようにしてそっと開くんス。ね?簡単っしょ?」 ハボックの手元をじっと見つめていたロイは大きく頷くと卵を手に取る。いささか緊張した面もちで卵を持った手を振り上げるとカウンターに打ち当てた。 グシャッ! 「あっ!」 カウンターに当てた卵はヒビが入るどころかグシャリと潰れてしまう。凍り付くロイにハボックは笑って言った。 「ちょっと力が入りすぎたみたいっスね。もうちょっとそっと当てて、ロイ」 ハボックは言いながら器用にカウンターに零れた卵をボウルに掬い取ってしまう。新しい卵をロイに差し出して言った。 「はい、どうぞ」 「いいのか?」 そう尋ねればにっこりと笑って頷く。ロイは今度は卵をそうっとカウンターに当てた。 「あれ?」 割れたかと打ちつけた面を見れば殆ど割れ目が入ったように見えない。むぅと唇を突き出して、それでもうっすらと入ったように見えるヒビを強引に割り開こうとすれば。 グシャッ! 卵はロイの手の中で潰れてしまう。呆然と卵を見ていたロイの目にみるみる涙が膨れ上がったと思うと。 「なんで上手くいかないんだッッ!!」 わんわんと泣きながら悔しがるロイをハボックは目を丸くして見つめたのだった。 2010/06/26 |
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