そのじゅうよん


「んーと、じゃあ夕飯作る前に風呂入っちゃいましょうか」
 ちょっと一服とロイにはミルク、自分はコーヒーを飲んでハボックが言う。ロイが頷けば、ハボックはタオルやら着替えやらを用意するとロイを浴室へ案内した。
「一日バタバタしてたから疲れたっしょ?ゆっくり浸かりましょうね」
 ハボックはそう言って服を脱ぎ始める。てっきり使い方やシャンプーの場所だけ教えて出ていくとばかり思っていたハボックが一緒に入るつもりらしい事に気づいて、ロイは目を丸くして言った。
「ちょっと待て!お前、一緒に入るつもりかっ?」
「そうっスけど」
 当然だろうと言う顔をするハボックにロイが喚く。
「なんで一緒に入るんだっ!風呂は一人で入るものだろうっ?!」
「子供が大人と一緒に入るのなんて普通っしょ?何怒ってるんスか?」
 心底判らないと言う顔をするハボックにロイは言葉が見つからない。ハボックは見上げてくる黒い瞳に笑って言った。
「さっきだって一緒にシャワー浴びたっしょ?ほら、早く早く」
 ハボックはそう言うとさっさと服を脱いでしまう。
「先入ってるっスよ」
 言って中へ入る逞しい背中を見送ってロイは途方に暮れた。
「なんで一緒に入りたがるんだっ」 
 司令部でだって本当は恥ずかしくて仕方なかったのだ。ロイはハボックが出てくるまで入るのをやめようかと思ったが、その時中から聞こえた呼び声にため息をつくと服を脱ぎ捨てた。
「遅いっスよー、風邪引いちゃうっスよ?」
 中に入れば髪を洗いながらハボックが言う。そのハボックからなるべく離れて座るロイに、手早く泡を洗い流したハボックが言った。
「じゃあ洗いましょうか」
「自分でやるッ」
 立ち上がってスポンジに手を伸ばすハボックより一瞬早く、スポンジを手にしてロイが言う。
「今度は自分で洗うっ」
 シャワールームでは大人しくするに任せたが、流石にこれ以上は勘弁して欲しい。ギュッとスポンジを握り締めて言うロイにハボックは首を傾げた。
「まあ、練習っスもんね」
「私は子供じゃないぞッ」
 ハボックの言葉にロイがムッとして言う。何処から見ても子供のロイのそんな言葉に吹き出しそうになるのを必死にこらえて、ハボックは言った。
「はいはい、じゃあ洗ってください」
 言って椅子に腰を下ろすハボックを見て、ロイはホッと息を吐く。体と頭を洗って顔を手でこすっているとハボックが言った。
「ちゃんと洗えたっスか?」
「うん」
 答えてロイはブルブルと頭を振る。犬猫のように体の滴を跳ね飛ばすロイにハボックは笑って言った。
「じゃあ、浸かるっスよ」
 その言葉と同時にハボックの手が伸びてくる。両脇に手を入れられヒョイと抱えあげられたと思うと、ザブンと湯船に入れられてロイは目を見開いた。
「狭いけど何とか入れるっスね」
 続いて湯船に入ろうとしたハボックは湯船の中でジャバジャバと暴れ出すロイに目を丸くする。どうしたと尋ねる前にロイが叫んだ。
「風呂は嫌いにゃーッ!」
「ロイ?」
 叫んでロイは湯船の縁に足をかけて出ようとする。だが、慌てすぎて前のめりに落ちそうになって、ハボックが慌てて手を伸ばした。
「危ないッ」
 咄嗟に支えた細い体をハボックは抱き上げる。半泣きなっているロイの顔を覗き込んで言った。
「ロイ、風呂嫌いなんスか?」
「溜まってる水は苦手にゃッ!!」
 なにやら妙な言葉遣いで叫んで縮こまるロイにハボックはため息をつく。その背をそっと撫でてやりながらハボックは言った。
「じゃあ、オレが抱っこしててあげるっスから」
「嫌にゃッ、出るにゃッ」
 腕を突っぱねたロイは長い尻尾でハボックの腕をペシペシと叩くとハボックの腕から飛び降りる。
「ちょ…ッ、走ったらあぶな」
 そのまま浴室から飛び出そうとするロイにハボックが言いかけた瞬間、ズルリと足を滑らせたロイがものの見事にコケた。
 ビタンッッ!!
 もの凄い音と共に床に張り付くロイをハボックは目を丸くして見下ろしたのだった。


2010/05/29


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