そのじゅうさん


 ロイの為の服を買って夕飯用の食材を買って、二人は大きな紙袋を抱えてアパートに向かう。ハボックは長い腕で荷物を器用に抱えるとポケットから鍵を出して部屋のドアを開けた。
「どうぞ、散らかってるっスけど」
 そう言って促せばロイがハボックを見上げる。どうぞと笑って頷いてみせるとロイはそっと部屋の中へと入った。
「服はその辺に置いておいて。後で片づけるっスから」
「判った」
 食材の袋を抱えてキッチンに入りながら言うハボックにロイは頷く。ハボックはとりあえず冷蔵庫にしまうべきものを放り込んでしまうと、リビング兼ダイニングに置いてある小さなソファーの背にあたるところにある窓を少し開けた。
「今日はまだ来てないのかな……」
 窓の向こうには枝を大きく広げた木が立っている。張り出した枝が窓のすぐそばまで届いて、まるで窓にかかる橋のようになっていた。
「誰かを待っているのか?」
 ハボックの口振りにロイが不思議そうに尋ねる。そうすればハボックが振り向いて答えた。
「猫がね、遊びに来るんスよ」
「ねこ?」
「そう、美人の黒猫が」
 ハボックはソファーにチョコンと腰掛けているロイに向かって言う。
「この枝伝ってね、窓までやってくるんス。オレが部屋の灯りつけると大概すぐやってくるんスけど」
 今日はまだかなぁとハボックは張り出した枝を眺めた。
「この間ケンカして脚に怪我しててそれがどうなったか気になるし、それに今日はせっかくロイが来てくれたから紹介したいし」
「別に紹介なんてしてもらわなくても」
「そんな事言わずに。すっごい可愛いっスから」
 きっとロイも気に入るっスよ、と笑うハボックに、ロイは困ったように目を伏せたのだった。


2010/05/22


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