そのじゅうに


「とりあえず下着とズボンにシャツ……あと靴があればいいいっスかね」
 大きな雑貨店の入口をくぐり、子供用品を扱っているコーナーに向かいながらハボックが言う。普段は絶対縁のないそのコーナーの棚にならぶシャツを手に取ったハボックは、値札を見て「ゲッ」と声を上げた。
(高い……)
 これっぽっちしか布を使っていないのに、どうしてこんな値段がするのだろう。
「オレのシャツの方がずっと安いじゃん、勿体ない……」
 今月は苦しいと言うのにこれで給料日まで極貧生活決定だとハボックがため息をついた時、下の方から聞こえた声にハボックはハッとして視線を向けた。
「私ならこれで十分だぞ」
 そう言ってロイは肩からずり落ちかけているTシャツをさして言う。
「えっ、いや買いますよっ、これ!」
「だってお前のシャツの方が安いんだろう?勿体ないって言ってたじゃないか」
 心の中で呟いたつもりがどうやら言葉になっていたらしい。そう言って見上げてくる黒い瞳にハボックは慌てて笑ってみせた。
「いや、そんな事ないですって。ロイならどれが似合うかなぁっ」
 わざとらしい大声でハボックは言うとロイの顔にシャツを当ててみる。ロイは当てられたシャツを見下ろし、それからそれをハボックを押し返して言った。
「これは嫌いだ」
 そう言って近くのワゴンにスタスタと歩いていく。背伸びして中のシャツを一枚引っ張り出すとハボックに差し出して言った。
「これがいい」
 ロイが言って差し出したのはセール品のシャツだった。値札を見れば半額のシールが貼ってある。ハボックはシャツをギュッと握り締めると見上げてくるロイを見て言った。
「すんません、オレ……」
「どうして謝る?むしろ余計な出費をさせて謝らなければならないのは私の方なのに」
 そう言って笑うロイは妙に大人びて見える。子供にそんな事を言わせてしまっている自分を情けなく思いながらハボックは言った。
「じゃあ!その代わり飯はロイの好きなもん作るっスから!何がいいっスか?なにが好き?」
 ハボックはロイの前にしゃがみ込んでその顔を真正面から見つめて尋ねる。正面から見つめてくる空色にロイが顔を赤らめて答えた。
「オ…オムレツっ!」
 胸元でギュッと手を握り締めて言う様がさっきの大人びた様子とは打って変わって可愛らしい。ハボックはにっこりと笑って答えた。
「いいっスよ。じゃあ今日はロイの好きなオムレツと、サラダは何にしましょうか。チキン?」
「…ツナがいい」
「了解」
 パンは何にするか、デザートは何がいいか、二人は楽しそうに相談しながら決めていったのだった。


2010/05/08


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