そのじゅういち


「あ、中佐」
 振り向いたハボックを押し退けてヒューズはソファーに座るロイに近づく。フュリーと二人してロイを構っていたホークアイが澄ました顔で立ち上がった。
「もういいのか?中尉」
「はい、取り敢えず堪能致しましたから」
 ヒューズの問いにホークアイはにっこりと笑って答える。
「女の子は幾つになっても可愛いものに目がないよな。俺のエリシアちゃんもそうでよ」
 顔をだらしなく緩めてヒューズは言うとロイに向き直った。
「随分綺麗になったじゃないか。コイツは少尉のシャツか?」
「泥まみれになっちまったんスよ。他に適当な服、なかったもんで」
 一応洗ったヤツですよ、と言いながらハボックが恥ずかしそうに頭を掻く。真っ直ぐに見上げてくる黒い瞳にニカッと笑ってヒューズは言った。
「ああ、こうして見ると耳があるのも可愛いじゃねぇの。しかし、このシャツはいかにもデカいな」
 ヒューズはそう言って細い肩から落ち掛けているシャツを引き上げてやる。艶やかな黒髪を撫でながら言った。
「この格好じゃいくら何でも可哀想だ。少尉、今日はもうあがっていいからこの子に服買ってやれ」
「えっ?オレがっスか?」
「お前でなきゃ誰が買うんだよ」
「オレ、給料日前で金ないんスけど」
 困ったように眉をしかめるハボックにヒューズが言う。
「煙草買うの控えりゃ子供服の一枚や二枚買えんだろ」
「えーッ!中佐の方が高給取りなんスから中佐が金出してくださいよ」
 思わず声を上げるハボックの顔をムギュと押してヒューズはロイの顔を覗き込んだ。
「ならロイに聞こうぜ。なあ、俺に服買ってもらうのとコイツに買ってもらうのと、どっちがいい?」
「ちょっと、中佐!」
 胡散臭い笑みを浮かべるヒューズと困った顔で大声を上げるハボックの顔をロイは見比べる。迷うことなくハボックを指差したロイにヒューズがニヤリと笑った。
「決まりだな」
「だからオレ金ないって言って―――」
「こんないたいけな子供の言う事、無碍にするのか?少尉」
「……ッ」
 そう言うヒューズの言葉とロイの視線にハボックは言葉に詰まる。
「判りましたよ!買えばいいんでしょっ」
「ちゃんとメシの面倒もみるんだぞ」
 サラリと追加の注文も受けて、金欠のハボックはゲッと顔を歪めてロイを見た。
「別に迷惑なら無理にとは言わねぇけどよ」
 綺麗な黒い瞳を見つめていれば背後から聞こえるヒューズの声に。
「迷惑だなんて言ってないっスよ。行きましょ、ロイ」
 ハボックはそう言ってロイに向かって手を差し出す。そうすればホッとしたように笑って手を伸ばしてくるロイに何故だかドキッとしながら、ハボックはロイを抱き上げたのだった。


2010/05/04


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