霧屋2  第六章


「動くなッ!!」
「死にたくなかったらその場から動くんじゃないぞッ!!」
 バラバラと走り込んできた男たちが銃を構えるのを見ればパーティ会場に悲鳴が上がる。騒然とする広間の中、男が腕を伸ばし天井に向けて銃を一発撃った。
 ガウンッッ!!
 ガシャーンッッ!!
 天井のシャンデリアが砕け床に破片が散らばる。キャアアッッと悲鳴が上がる室内に男の怒声が響いた。
「これ以上騒げば今度はその口にぶち込むぞッ!!」
 そう言いながら銃口を向けられれば誰もが口を閉ざす。これだけの人が広間にいるとは信じられないほどシンと静まり返った室内を、押し入ってきた男たちは順繰りに見回した。
「そうだ、大人しくしていろ。そうすれば危害は加えない」
 リーダー格の男が言い、仲間に顎で合図する。そうすれば仲間の男たちがパーティの客たちの持ち物を調べ武器になりそうなものを取り上げていった。
「い…一体何者だッ、お前たちッ?!」
 持ち物をチェックされ、座るよう銃で促されながらガーランドが声を張り上げる。震えてはいたが必死にそう尋ねる議員をリーダー格の男は鼻で笑った。
「お前たちにいちいち説明する必要はない」
「なんだとッ?」
 流石にカッとして声を荒げるガーランドに男がチャッと銃の先を向ける。ガーランドがギクリとして口を閉ざせば男は銃口をガーランドの腹に押しつけた。
「風穴を開けられたくなかったらその口を閉じておけ」
 そう言われてガーランドは悔しそうに男を見たが、なにも言わなかった。次々と客たちの荷物を調べ、幾つかのグループに分けて座らせていった男の一人がロイの前に立つ。ロイの顔を見て一瞬目を見開いた男はニヤリと笑って言った。
「これはこれはマスタング大佐。こんなところでお目にかかれるとは!」
 そう言って男は両腕を広げてみせる。芝居じみたその態度にロイは眉間の皺を深めて男を睨んだ。
「ゾラ」
 指名手配中のテロリストの名をロイが口にすれば男は楽しそうに笑う。左の袖をグイとめくると醜い傷跡を晒した。
「あんたに付けられた傷、今でも痛むんだよ。痛い痛いって夜になると啼いて疼いてね、あんたに同じ傷をつけないと収まらないらしい」
 そう言った男─ゾラ─がロイの目の前に傷を突きつけたがロイは眉一つ動かさずに男を見つめる。顔色すら変えないロイにゾラはフンと鼻を鳴らして手を差し出した。
「渡して貰おうか」
「なにをだ?」
 言われてロイは無表情に問いかける。ゾラは忌々しそうにロイを睨んで差し出した手のひらを振った。
「決まってるだろう、発火布だ。持っているんだろう?」
 ゾラの言葉にロイは答えず発火布を差し出すこともしない。ただ黙って見つめてくる黒曜石にゾラは顔を歪めて銃を天井に向けて撃った。
「次はその女を撃つ」
 ゾラは言って銃口をガーランドの娘に向ける。傍らで無言のまま目を見開く娘をチラリと見て、ロイは隠しに手を差し入れた。そこから取り出した発火布の手袋をゾラは確かめ、仲間の男に放り投げる。ロイから護身用の銃も取り上げ、ゾラはロイと娘に床に座るよう命じた。
「目的はなんだ?」
 ロイはゾラを見上げて問いかける。だが、ゾラはニヤリと笑っただけで答えずに残りの客の方へ足を向けた。ロイは答えを得られなかったことで一つため息をついて楽なように座り直す。隣に座る娘を見て口を開いた。
「大丈夫ですか?怖かったでしょう、銃を向けられて」
 ロイが気遣うように言えば娘は一瞬目を見開いてから小さく笑みを浮かべて首を振った。
「いいえ。幾ら何でもあそこで発砲はしないと思いましたから」
 そんな娘の言葉にロイは目を瞠る。娘の顔をじっと見つめてロイは尋ねた。
「もう一度お名前を聞かせて頂けますか?」
 恐らくは最初に会ったときに聞いたであろう名を思い出せず、ロイが聞けば娘は笑みを深める。
「マレーネです、マスタング大佐」
 そう言って笑いかけてくる娘にロイもにっこりと笑い返した。


「そろそろ行くかな」
 ハボックは可部の時計を見て呟く。時計の針は八時十五分過ぎを指しており、車で行くことを考えれば出るには若干早い時間だった。
「どうせそろそろ我慢できなくなってるだろうし」
 なんだかんだ言いながらも女性とのおしゃべりでロイは楽しく時間を潰しているであろう。とはいえ、場所がガーランド邸であることを考えればそろそろ限度だろうとハボックは腰を上げる。車のキーを掴み家を出た。運転席に乗り込みハボックはアクセルを踏み込む。
「着く頃には玄関先で待ってるかな」
 ハボックはそう呟いて車をガーランド邸へと向けた。


 書類作成で残っていたブレダは最後の一文字を書き終え、うーんと伸びをする。できあがった書類をきちんと重ねホチキスで止めるとそれを手に立ち上がった。
「これを出せば終わり……っと」
 そう呟きながら主のいない執務室の扉を開ける。出来立てほやほやの書類をロイの机の“至急”と書かれた箱の一番上に載せた。
「今頃大佐はパーティか」
 思い切り不満そうな顔をして出かけていった上司の事を思い浮かべてブレダは呟く。まだ暫くは愛想笑いを浮かべなくてはいけないであろうロイをほんの少し気の毒に思いながらブレダは執務室を出た。
「俺はこれで終わり。大佐には悪いけど、帰ってビールでも飲もう」
 出たくもないパーティに出るのも上の人間のさだめとブレダが帰ろうとした時、机の上の電話がリンと鳴る。思い切り顔を顰めて電話を見たブレダは一瞬無視して帰ってしまおうかと思ったが、さすがにそうも行かず仕方なしに受話器を取り上げた。
「もしもし、こちら司令室」
 書類の催促の電話だったらいいと思ったブレダは、受話器から飛び出してきた緊張した声に目を見開いた。


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