| 霧屋2 第二十四章 |
| 「ハボの奴、なんて?」 ハボックとの通信を切ったホークアイにブレダが尋ねる。 「十分したらゾラに連絡を入れて注意を引きつけてくれと言ってきたわ。十五分後に行動を起こすとも」 時計を確認してそう言うホークアイの言葉に、ブレダは木々の向こうの母屋に目を向ける。 「いつでも突入出来るようにしておいて、ブレダ少尉」 「アイ・マァム!」 母屋に向けていた視線を戻したブレダが敬礼を返して部下達に指示を与えるべく足早に去る。その背を見送ってホークアイはフュリーを振り向いた。 「フュリー曹長、ゾラに連絡を取る準備をして頂戴」 「はいっ」 ホークアイの声にフュリーが頷いて通信機に手を伸ばす。その動きを目の端に納めながら、ホークアイは霧の向こうに霞む母屋を睨むように見つめた。 「流石にもう広間から出てこないな……」 離れて行動していたテロリストをブレダ達と排除してきた。本当はもう少し人数を減らしたいが、流石に向こうもおかしいと思い始めたのだろう。様子を見るために動き回るより人質を楯に立てこもる方が良案と見たらしく、テロリスト達が母屋の中を動き回っている様子はなかった。 「まあ、オレでもそうするだろうしな」 ハボックはそう呟いて身を潜めていたシンクの陰から立ち上がる。人の気配は感じないものの、注意して厨房の扉をすかし辺りの様子を確かめてからそっとその隙間から滑り出た。足音を立てないようにしながら広間へと近づいていく。やがてたどり着いた広間の扉の脇に張り付くようにして中の様子を伺っていれば、中から電話の音が鳴り響くのが聞こえた。 電話のベルが鳴り響くのを聞いて、マレーネがハッとしてロイを見る。それに微かにロイが頷けば、マレーネは自分の前に並ぶ客達の疲れきった顔に目を戻した。 「急いでください、さあ、お水をどうぞ」 時計もなく時間の感覚もあやふやだからはっきりしないが、突入までにもう時間がないのだ。マレーネはそう感じながらテロリスト達に怪しまれない程度に客を急かす。何とか客に水を配りながらメモをほぼ見せ終えたマレーネは、最後に目の前に立っているのが父のガーランドだと気づいた。 「お父さま」 ガーランドの顔を見た途端、マレーネはロイに頼まれていた事を思い出す。メモを見せながら水が入ったグラスを渡して、マレーネは囁いた。 「タイマーを貸してください」 突然そんな事を言われてガーランドは娘の顔を見つめる。だが、なにも言わずにポケットに手を突っ込むと中からタイマーを取り出しグラスを返すのと一緒に娘に手渡した。娘を励ますようにその目を見つめながら頷くと、ガーランドは客達と一緒にテーブルのすぐ近くに腰を下ろす。それを確認してマレーネは水を注いだグラスを手に取りロイに近づいていった。 「マスタング大佐もどうぞ」 マレーネはそう言いながら腰を落としグラスを差し出す。グラスと一緒にタイマーを受け取って、ロイは笑みを浮かべた。 「ありがとう、マレーネ。貴方も議員と一緒に」 「……はい」 ロイの言葉に頷いてマレーネは立ち上がるとガーランドが座っている場所に向かう。父親の側に来た途端、マレーネはヘナヘナと床に座り込んだ。 「大丈夫か、マレーネ!」 慌てて腕を差し伸べるガーランドに縋るようにして床に座ってマレーネは頷く。 「ええ、大丈夫……」 (よかった、少しでもお役に立てた……) 大役を果たした達成感を感じながら、マレーネはロイをじっと見つめた。 なんの前触れもなく鳴り出した電話をゾラはじっと睨みつける。五回、六回とベルが鳴るのを聞いて、ラバトが恐る恐るゾラを見て言った。 「出ないのか?」 そう言えばジロリと険悪な視線を向けられてラバトは首を竦める。ゾラは電話が鳴り続けるのを黙って聞いていたが、電話に近づくと通話のためのボタンを押した。 「ゾラだ」 『ホークアイ中尉よ』 そう答えれば一瞬おいてスピーカーから声が聞こえる。 『なかなか出ないから人質をおいてどこかへ行ってくれたのかと思ったわ』 「残念だったな」 フンと鼻を鳴らしてゾラは答えると「それで?」と先を促した。 『今、最終の調整中よ』 「まだグダグダしてやがんのか」 ホ ークアイの答えにゾラは不機嫌に顔を顰める。 『さっきも時間がかかるって言ったでしょう?そっちだって判っている筈よ』 「俺は待たされるのが嫌いなんだよ」 ゾラが吐き捨てるように答えればホークアイが言った。 『もう少ししたら釈放の手続きが取られるわ。それで、これから先の事を話したいの。人質を解放して投降してくれるというのが一番手っとり早いのだけど』 「面白い事をいう女だな」 ゾラはホークアイの言葉に鼻で笑う。 「車を用意して貰おう。仲間はこれから言う場所で釈放しろ」 そう言ってゾラは釈放場所を告げる。その場所の名を復唱してホークアイは言った。 『釈放場所は了解したわ。でも釈放は人質が無事解放されてからよ。人質の解放がなければ釈放もあり得ない』 その言葉にチラリと床に座り込むロイに目をやって、ゾラは答える。 「人質は解放してやる───マスタング大佐を残してな」 『馬鹿言わないで。釈放は人質全員の解放が条件よ』 「全員解放したら俺達の身がやべぇだろうが。マスタング大佐は俺達の身の安全を確保出来たら解放してやる」 物騒な笑みを浮かべてロイを見ていたゾラは、ガーランドの娘が近づいていくのに気づいた。一瞬警戒するように目を細めたものの、娘が水の入ったグラスをロイに渡すのを見て肩の力を抜く。ロイから目を離し、窓越しに外へと視線をやってゾラは言った。 「あと三十分で車を用意しろ。釈放は今から一時間後に───」 ゾラがそこまで言った時、一瞬にして視界が真っ白になった。 |
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