| 霧屋2 第二十一章 |
| 「まったく……ダイルの奴、どこまで見に行きやがったんだ?」 ゾラに怒鳴られて広間を飛び出したルイスは母屋の廊下を歩きながら呟く。玄関へと続くホールまで来ると厳つい顔に困惑の色を浮かべた。 「ジャニス?……なんだよ、ジャニスもいねぇのか。どうなってんだ?」 この辺りを見回っている筈の仲間の姿も見えないことを訝しみながら、ルイスは玄関へと歩み寄る。ギィと音を立てて扉を開けば濃い霧が流れ込んできて、ルイスは顔を顰めた。 「嫌な霧だぜ。軍の奴らが来ても判らねぇじゃないか」 そう呟いてからまさかと思う。辺りの様子を伺おうと顔を突き出したルイスは、その途端首に巻き付いてきた腕に目を剥いた。 「な……ッ?こ、の……ッッ!!」 顔が動かせず、視線だけを動かして見れば恰幅のよい軍人が無表情のまま己の首を絞めている。離せと叫ぼうとした途端、グッと喉に食い込む腕に力が入り、ルイスは昏倒して倒れた。 「これで五人」 ブレダはテロリストの男の体を肩に担ぎ上げる。 「後は頼んだぜ、ハボ」 母屋を見上げて言うとブレダはテロリストを連れて霧の中に姿を消した。 「あー、退屈だぜ」 「まったくだ。殺すなっていうなら人質の女をヤるか?」 「そりゃいい、ゾラに聞いてみようぜ」 テロリストの男はそう言って下卑た笑い声を上げる。ガチャリと広間の扉を開いて中に入った途端、物騒な視線を寄越すゾラに驚いてテロリストの男は言った。 「どうしたよ、ゾラ。恐い顔して」 「まあ、恐い顔はいつものことだがよ」 中に入ってきたテロリスト二人は、そう言ってゲラゲラと笑う。だが、ゾラももう一人の男も黙ったままなのを見て笑いを引っ込めた。 「おい、ゾラ───」 「ルイスはどうした」 「ルイス?」 聞かれてテロリスト二人は顔を見合わせる。 「お前らを呼びに行かせたんだ。ルイスはどこだ?ラバト」 「会ってねぇけど……なぁ」 聞かれてラバトと呼ばれた男がもう一人の同意を求める。男が頷くのを見て、ラバトはゾラに言った。 「退屈だったんでアープと二人屋敷ん中回ってきたけど、ルイスには会わなかったぜ」 そう言うラバトの言葉にゾラは眉を顰める。 「屋敷の中はどんな様子だった?軍の奴らが何か仕掛けてきている様子はなかったか?」 「……特に変わった様子はなかったっすけど」 少し考えてアープが答えた時。 ジリリリリリ!! 高いアラーム音が鳴り響くのが聞こえて、ゾラ達はバッと身構える。 「ラバト、見てこいッ!!」 ゾラの言葉に弾かれたようにラバトが広間を飛び出していった。少しして戻ってくると手にした小さなものをゾラに差し出す。時計のようなそれを見て尋ねる視線を向けてくるゾラにラバトは言った。 「タイマーだ。厨房でタイマーが鳴ってた」 「タイマーだと?どういうことだ?」 ゾラは眉を寄せて手の中のタイマーを見る。広間の隅に座り込んでいるガーランドに歩み寄りタイマーを投げつけた。 「どういうことだ、これは」 「わ、私にも判らん」 突然鳴り出したタイマーの理由など判ろう筈もない。だが、判らないだけではこの凶暴なテロリストは満足しないだろうと、ガーランドは言葉を続けた。 「料理人が何かタイマーをセットしておいたのがそのままになっていたのかもしれん。いや、きっとそうだろう」 他にタイマーが鳴る理由が思いつかずそう言えば、ゾラが苛々とした様子で見つめてくる。何か言いがかりをつけられやしないかと内心ビクビクしていると、ゾラがフンと鼻を鳴らして離れて行くのを見て、ガーランドはホッと胸を撫で下ろした。 「どうする?もう一度見てこようか?」 戻ってきたゾラにラバトが言う。ゾラは顔を顰めたまま答えた。 「いい、ここにいろ。警戒を怠るな」 そう言ったゾラは足下に視線を移して眉を寄せる。気がつけばどこからか入り込んだ霧が広間の床近くに溜まってきていた。 「くそっ、どこから入って来やがるんだ、この忌々しい霧はッ!」 ゾラは舌打ちして足下の霧を思い切り蹴飛ばした。 鳴り響くアラーム音にロイは弾かれたように顔を上げる。飛び出していったテロリストがタイマーを手に戻ってきたのを見つめていたロイは、頭に浮かんだ考えに僅かに目を見開いた。 (ハボックがすぐそこまで来てる) ロイはそう考えながらゾラとガーランドのやり取りを見つめる。ガーランドの言うような料理人のタイマーの止め忘れなどではない事をロイは確信していた。 (これはハボックの合図だ。何か意味がある筈だ、考えろ、一体ハボックは私に何を伝えたいんだ?) ハボックがロイ達を助けるために来ていることはこの霧を見れば判る。だが、今のタイマーはそれ以上の事を伝えようとしている筈と、ロイはゾラを睨みつけながら必死に考えを巡らせていた。 |
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