| 霧屋2 第二十章 |
| 同じようにして更に二人のテロリストの自由を奪いハボックは母屋の奥へと進んでいく。扉のひとつを開ければ幾つも並ぶコンロと調理途中の食材が放置されているのを見て、ハボックはそこが厨房だと気づいた。 「どうするかなぁ」 ハボックはシンクの陰に座り込んで考える。テロリストは八名ないし十名と聞いた。ということは上手くすれば残り半分、多くてもあと六名残っているということだ。だが、これ以上人数が減っていけばテロリスト達も異変に気づき警戒しだすに違いない。 「つか、そろそろ気づくかもだよな」 出ていった仲間がいつまでも戻ってこないのだ。変だと思わない方がおかしい。 「ここからは時間との勝負ってか」 ハボックはそう呟いて考えを巡らせる。なんと言ってもネックは未だ残っている三十人の人質だ。こちらが仕掛けるにしても障害になり、下手をすれば逆上したテロリストの怒りの捌け口にもなりかねない。彼らをなんとかしなければ思うように動けなかった。とはいえ、自分一人の力だけでは手に余り、ブレダ達の力を借りる事も出来ないとなれば残っている人物は限られてくる。 「あんまり気は進まないけど」 ゾラはロイを恨んでいる。今はまだなにもしてはこないがロイに仕返し出来る機会を狙っているに違いない。ロイがなにかしらの行動を起こせばゾラはそれを好機と見てロイに危害を加えかねないと思えた。とはいえ。 「仕方ないか、他に方法ないし」 なんと言ってもロイ自身が大人しく控えているのをよしとしない性格だ。ロイに勝手に動かれるよりは自分の計画の中で動いてくれた方が何倍もましだろう。 「さて、どうするか……」 ハボックはそう呟いて厨房の中を見回した。 「おい、ダイルはどうした?」 ゾラは広間を見回して言う。 「ダイルなら少し前に外の様子を見てくるって出ていきましたけど」 ゾラの言葉に人質のすぐ近くに立っていた男が答えた。気がつけば広間にいるのは自分も含め三人しかいないという状況に、ゾラは思い切り舌打ちする。こちらには武器があり、人質の大半は民間人であることを考えれば三人もいれば特に支障はないものの、やはり広い屋敷のどこに誰がいるか把握しておく必要はあるだろう。 「外にいるのはレンとカリムか?後はどうなってる?」 「広間と玄関の間をジャニスが見回ってます。後は」 人質を見張っていた男がもう一人と顔を見合わせる。視線で意志の疎通をはかって、うちの一人が言った。 「判んねぇです。みんな結構勝手にうろうろしてっから」 軍との交渉にはまだ時間がかかり、それまでは人質を見張る以外する事もない。警戒しているとはいえ、ずっと緊張状態を続けるのは無理な話で、軍が周りを取り囲むだけでなにもしてこないのを見れば余計に邸内を歩き回らずにはいられない気持ちも判らないではなかった。 「ったく、好き勝手しやがって。まだ始まったばかりだろうが」 それでもゾラは不機嫌に言う。それを聞いて男が言った。 「仕方ないですよ。せっかく旨い酒があっても飲めるわけじゃねぇし」 「つか、こう料理も酒もふんだんにあるところで飲み食いも出来ねぇとオアズケ食ってるみたいで」 なあ、と頷き合う男達にゾラは目を吊り上げる。怒りにまかせて手を薙ぎ払えば近くのテーブルのグラスが床に飛んで耳障りな音と共に割れた。 「お前らなにしにここに来てんだ。メシ食いに来た訳じゃねぇんだぞ、いい加減にしろッ!」 「すっ、すんませんッ!」 ゾラの剣幕に男達がデカイ体を縮める。ゾラは思い切り舌打ちして言った。 「ルイス、レンとカリムを残して全員一度ここに戻ってくるように言え」 「判りましたッ」 ゾラに言われてルイスと呼ばれた男が広間から飛び出していく。その背を忌々しげに見送ってゾラはテーブルに置いてあった酒のグラスを取りグビリと呷った。ぬるくなったそれにチッと舌打ちして乱暴にグラスを置く。 「少し軍の奴らを脅すか……?」 ゾラはそう呟いて霧に沈む窓の向こうに目をやった。 |
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