| 霧屋2 第十六章 |
| 「とりあえず一部人質の解放が終わったって事で、次は本格的な交渉っスね」 ハボックが霧の向こうに沈む母屋に目をやりながら言う。それに頷いて、ホークアイは言った。 「そうね。ただ、今のところ上は仲間を解放する気はないようだけど」 「仲間は解放せずに人質を無事助けだし、テロリスト達を拘束しろ、ですか?誰がやるんです?それ」 ブレダがげんなりとため息をつく。そうすれば肩を竦めてホークアイが言った。 「私たちがやるしかないでしょう」 「……そうっスね」 ホークアイの言葉にハボック達が顔を見合わせて言う。恐らく上層部は口出しだけはするものの、実際の交渉についてはこちらに丸投げするつもりだろう。自分達以外に頼れるものはなく、冷静に考えればどう見てもこちらが不利だった。 「で?どうします?」 悩んだところでやることは変わらない。それならさっさと取りかかろうとハボックが尋ねればホークアイが答えた。 「とりあえずはさっきのふざけた行動に文句は言っておきたいわね」 「中尉、冗談きつすぎます」 無表情にそう言うホークアイの言葉の中に本気が垣間見えて、フュリーが慌てて通信機のマイクを押さえ込む。だが、鳶色の瞳で見つめられてフュリーは仕方なしにマイクを差し出した。 「お願いですから穏便にお願いします、中尉」 それでも最後の足掻きとばかりにそう言うフュリーに。 「テロリスト相手に穏便もなにもないわ」 ホークアイはピシャリと告げたのだった。 数カ所に分けて座らせられていた人質達は、人数が減って二カ所に纏められる。その中でも他の客達とは少し離れた壁際に座るロイのところへマレーネが寄ってきた。 「マスタング大佐」 「マレーネ」 そっと側に腰を下ろしてマレーネは心配そうに呟く。 「大丈夫だったでしょうか」 聞こえた銃声がどれほどの被害をもたらしたのか、想像するのも恐ろしいと言うように声を震わせる娘にロイは言った。 「テロリスト達の様子を見る限りでは奴らが思うような結果にはならなかったようですね」 「本当ですか?」 ロイの言葉にマレーネはホッと息を吐き出す。自分と父とで人選した事で、人質になにかあれば自分達のせいと抱く必要のない罪悪感を感じてしまっていたらしいマレーネにロイは言った。 「貴方のおかげで逃がすべき人を先に逃がすことが出来た。感謝しています、マレーネ」 「マスタング大佐」 ロイに感謝の言葉をかけられてマレーネは頬を染める。マレーネは嬉しそうに笑みを浮かべていたが、テロリスト達を見遣って言った。 「これからどうなるんでしょう」 「本格的な交渉を始めることになります」 「仲間を解放するんでしょうか」 「テロリスト達の要求を飲んでいたらこの先テロが頻発しますよ」 肩を竦めてロイが言えばマレーネが「そうですよね」と呟く。最初のうちは「わくわくする」などと言っていた娘も、流石に今の状況ではそうも言っていられなくなったようだと、ロイはマレーネを見て言った。 「大丈夫ですよ、私の部下は皆優秀だ。私がいなくても最善の方法で最善の結果を導き出してくれる」 安心させるように言うロイの言葉をマレーネは黙って聞いていたが、ふと思いついたように言った。 「さっき交渉の窓口になっていた中尉さん、あの方もマスタング大佐の部下の方なんですか?」 「ホークアイ中尉?ええ、そうですよ。彼女に任せておけば安心です」 ロイがこんな事を言うのを聞けば、きっとホークアイは思い切り嫌そうな顔をするに違いない。そう思えばロイの顔が自然に弛む。そんなロイの表情を見て、マレーネはほんの少し肩を落とした。 「どうかしましたか?」 そんなマレーネにロイは不思議そうに尋ねる。 「いいえ、なんでもありません」 マレーネの返事を聞いて、ロイはゾラへと視線を移して言った。 「とにかく今は様子を見守るしか……。来るべき時が来たらその時こそこんな事をしでかしたことを後悔させてやりますよ」 (その時は私もマスタング大佐にお役に立ちたい。マスタング大佐に認めて貰いたい……) 笑みを浮かべて言うロイの横顔をじっと見つめて、マレーネはそう考えていた。 |
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