| 霧屋2 第十一章 |
| リンと広間に響いたベルの音に、人質だけでなくテロリスト達も一瞬動きを止める。判断を仰ぐように視線を向けてくる男にゾラが頷けば、男は電話のボタンを押した。最新型の電話機は受話器のフックを上げないまま先方に繋がった事を示す緑色のランプが点る。少し待てば電話のスピーカーから女性の声が聞こえた。 『こちらはアメストリス国軍東方司令部所属、リザ・ホークアイ中尉、このたびの交渉を担当します。そちらの窓口は誰かしら?』 硬質な、だが緊張を感じさせない冷静な部下の声にロイはうっすらと笑みを浮かべる。ロイが視線を向ける先でゾラが口を開いた。 「俺だ」 短くそう答えただけで誰とも名乗らなければ、暫しの沈黙の後、スピーカーから声が聞こえた。 『ミスター・アンノウンと交渉する気はありません。代表者を出しなさい』 「随分大層な口を利くじゃないか」 こっちには人質がいるってのに、とゾラはニヤニヤと笑う。それでも腹を立てることなく言った。 「ゾラ・ウェイダーだ。判ってて聞いてるんだろう?」 『憶測で交渉は進められないわ』 スピーカーから聞こえる声にゾラはなるほどと頷く。 「それじゃあこっちの要求ももう一度言わないと駄目ってことかい」 『同じ理由からそうなるわね』 「面白い女だ」 ゾラはクックッと笑って広間を見回した。 「目的は別のところにあるんじゃねぇのか?」 見回した視線をロイの上で止めてゾラは言う。 「まあ、別に知られたからってお前さんの上官になにが出来るとも思えねぇがな」 無表情に見つめてくるロイの視線を受け止めたゾラは、フイと顔を背けて電話に視線を戻した。 「キガリ監獄に収監されている俺の仲間を釈放しろ。釈放しなければここにいる人質を殺す」 ゾラがそう言った途端、広間のあちこちから悲鳴が上がる。ロイが素早くその様子に視線を走らせている間に、スピーカーからホークアイの声が聞こえた。 『私一人で判断する事は出来ないから上層部の指示を仰ぐ事になるけど、その前に条件があるわ』 「条件だと?」 『貴方の誠意を見せて欲しい。人質を一部解放して』 ホークアイの言葉にゾラは一瞬目を瞠る。考えるようにゾラが黙り込めばホークアイの声が聞こえた。 『そちらにとっても悪い条件ではないはずよ。百人もの人質を抱えているのは大変でしょう?』 そう言われてゾラは広間の人質へ目を向ける。テロリストに視線を向けられて慌てて俯く者がいる一方、気丈にも真っ直ぐ顔をあげたままでいる者もいて、ゾラはフンと鼻を鳴らした。 「いいだろう。人選はこちらでする。一時間後に連絡を寄越せ」 『判ったわ、ゾラ・ウェイダー』 名を呼ばれて眉間に皺を寄せたゾラが何か言う前にホークアイからの通信が切れてしまう。ゾラはチッと舌を鳴らすと仲間の男を手招いた。 「さて、今度はこっちの出番か」 ヒソヒソとなにやら相談しているゾラ達を見つめながら、ロイは小さく呟いた。 パチンとホークアイがスイッチを切った途端、周りの部下達が詰めていた息を吐き出した。 「中尉ぃ……」 情けない声が聞こえてホークアイが振り向けば、唇の端に煙草をひっかけたハボックがガックリと肩を落としている。その隣のフュリーやブレダも同じ様子なのを見て、ホークアイは首を傾げた。 「どうかして?」 「どうかして、って……」 ホークアイの言葉にハボック達はため息を零す。 「ゾラがキレるんじゃないかとヒヤヒヤでしたよ」 ブレダが言えばホークアイは「あら」と意外そうな顔をした。 「まだ交渉を始めたばかりだもの。そうすぐにはキレたりしないわよ」 「でも気の短い男ですし」 「その時は大佐がフォロー入れてくれるでしょう」 平然としてホークアイが言うのを聞いて、ハボック達は顔を見合わせる。 「絶対火に油注ぐよな、大佐なら」 「だよな」 「ですよね」 ボソボソと顔を付き合わせて言う男どもにホークアイはパンパンと手を叩いた。 「ほら、グズグズしている暇はないのよ。次の交渉まで一時間しかないわ。フュリー曹長、ファルマン准尉から連絡はまだ?」 「あ、さっき。すみません」 言われてフュリーは慌てて端末からプリントアウトした情報を差し出す。それを受け取りながらホークアイはハボックに言った。 「ハボック少尉、いつでもいけるように準備しておいて頂戴」 「っ、アイ・マァム!」 ホークアイの言葉に弾かれたように答えて、ハボックは隠しから煙草のケースを取り出した。 |
| → 第十二章 第十章 ← |