Blackcurrant encounter


「よし、そうしたら卵白を泡立てるよ。卵を割って黄身と白身に分けて、黄身は使わないからこっちに」
「はいっ」
 ジャンはボウルに卵を割り入れ黄身と白身を分ける。白身だけを大きなボウルに移して泡立て器を手に取った。
「いっきまーす!」
「ツノが立つまでね」
「はいっ」
 ジャンは頷いてボウルを抱えるようにして卵白を泡立て始める。途中砂糖を振り入れて、ツノがピンと立つまで上手に泡立てた。
「旨そう……」
「食べちゃダメだよ」
 白く艶やかに仕上がったメレンゲを見てジャンが呟くのにオレは笑って言う。マスタングさんが腰を上げかけるのを視線で制して言った。
「次はゼラチンを溶かすよ。鍋を火にかけて、一番弱火にして。沸騰させないようにしながら掻き混ぜて、溶けたら残りの砂糖入れて」
「一番弱火……と」
 ジャンはオレに言われた通り火を極弱火につけるとゼラチンを溶かし砂糖を入れる。どう?と見上げてくるのに頷けば、ジャンが火を止めた。
「そうしたらさっきのメレンゲに少しずつ入れながら混ぜるよ。バニラエッセンスも忘れずにね」
「バニラエッセンスってどれくらい入れるんスか?」
「そうだなぁ……その分量なら三滴くらいかな」
「三滴……あっ、ちょっと多かったかも」
 パッパッと勢いよくエッセンスの瓶を振って、ジャンが慌ててオレを見る。「大丈夫大丈夫」と背中を叩けばホッと息を吐いて、ジャンはメレンゲとゼラチン液を混ぜ合わせた。
「よーし、いよいよマシュマロにするぞ。さっきのバットを用意して」
「はいっ」
 ジャンは元気に頷いてバットを引き寄せマシュマロのボウルと並べる。オレはスプーンを手にするとマシュマロをコーンスターチの窪みに流し入れた。
「窪みの半分位まで入れるんだ。全部の窪みに入れたらジャムを少量真ん中に落として残りのマシュマロを注いで蓋をする。慌てなくていいからやってごらん」
「うん……」
 ジャンはスプーンを持つと慎重な手つきでマシュマロを掬い窪みに注ぎ入れる。全部の窪みに注ぐとカシスジャムを少しずつマシュマロの真ん中に落とし、残りのマシュマロで蓋をした。
「終わった……」
 最後のマシュマロを入れて、ジャンはハァと息を吐き出す。知らず息を詰めてやっていたらしい少年にオレは言った。
「ジャンは仕事が丁寧だな。パティシエになったらきっと美味しくて綺麗なケーキを作れるよ」
「ホント?」
「ああ」
 見上げてくる空色にオレは笑って金色の頭を掻き混ぜる。嬉しそうに笑うジャンに笑い返せば、マスタングさんが立ち上がって近づいてきた。
「これで出来上がりか?」
「三十分くらいしたら固まるから、そうしたらコーンスターチを塗して出来上がりっス」
「ふぅん」
 マスタングさんは感心したように鼻を鳴らしてマシュマロに手を伸ばす。その手をピシリと叩けば、黒曜石の瞳が不満そうにオレを見た。
「マスタングさんには後で作ってあげるっス。これはジャンの大事なマシュマロなんだから」
「一つくらい味見させてくれたっていいだろう?」
「マスタングさん、子供っスか」
 唇を尖らせるマスタングさんと呆れたため息をつくオレを見て、ジャンがクスクスと笑う。
「凄く仲がいいんスね、ハボックさんとマスタングさん」
「当然だ」
「え……っ、んんッ!──ちょ……っ、マスタングさんッ」
 ハボックの言葉にニヤリと笑ったマスタングさんにいきなりキスされてオレは慌ててマスタングさんを押し返す。目の前でオレたちがキスするのを見て、顔を赤らめたジャンが慌てて目を逸らした。
「なにするんスかッ」
「いいじゃないか。恋人同士だって知ってるんだし」
「馬鹿ッ!」
 羞恥心ってものがないのか、この人は!プイと顔を背ければジャンと目があってオレは顔を赤らめる。そんなオレを見上げてジャンは言った。
「オレの先輩もすぐキスするっスよ。すごいいきなりでビックリする」
「ジャン」
「でもビックリしても嬉しいっスよね」
 ニコッと笑って幸せそうにジャンが言う。その表情にオレも笑って頷いた。
「そうだな」
「なんだ?もっとキスして欲しいって?」
「そんなこと言ってないっス!」
 ズイと顔を寄せてくるマスタングさんを押し返しながら、オレはなんだかとっても幸せな気持ちだった。


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