Jealousy cookies


「どう言うことですか?少尉のクッキーを食べるな、なんて」
「そっ、それはだなッ」
 鳶色の瞳に睨まれてロイはギクリとする。じっと見つめてくるハボックをチラリと見てロイは言った。
「ハボックのクッキーは私のものなんだッ!他の誰かが食べるなんて、赦せるはずがないだろうッ!」
 ロイは大声を張り上げると同時に手を大きく振る。その表紙に紙袋がガサリと音を立てて中からクッキーの袋が飛び出した。
「それは……」
「あっ」
 慌ててロイが拾い上げるより早くハボックがクッキーの袋を手に取る。リボンの色を見てそれが部下にあげたものだと気づいたハボックが目を見開いた。
「これ、オレがマイクにあげたクッキー……。それじゃあその中身もしかして……ッ」
 ハッとしてハボックはロイが持つ紙袋に手を伸ばす。中に沢山クッキーの包みが入っているのを見て、ハボックが目を瞠った。
「みんなにあげたクッキー、とりあげちゃったんスか……?ひどい……ッ」
「まあ」
 呟いてポロリと涙を零すハボックをホークアイが抱き寄せる。金色の頭を優しく胸に抱き締めて、ホークアイはロイを睨んだ。
「少尉が日頃の感謝を込めてみんなに配ったクッキーをつまらないヤキモチを妬いて取り上げるなんて」
「中尉ぃ……」
 クスンと鼻を鳴らすハボックの背をホークアイは優しく撫でる。
「そんな自分勝手な人に少尉を任せてはおけません。少尉は私が貰い受けます!」
「ええッ?!」
 突然の宣言にロイが飛び上がる。ホークアイはハボックを優しく見つめて言った。
「あんな自分勝手な男に貴方を任せる訳にはいかないわ。さ、私と一緒に行きましょう」
「中尉……」
 ホークアイはハボックの肩を抱くようにして廊下を歩き出す。慌てて追いかけようとするロイを肩越しにジロリと睨んでホークアイが言った。
「ついてきたら撃ちますよ」
 そう言うホークアイの手にいつの間にか銃が握られていることに気づいて、ロイは顔を引きつらせる。
「さ、あんな男は放っておいて、行きましょう、少尉」
 そう言って促されハボックはチラリとロイを見たが、なにも言わずにホークアイに抱き寄せられるようにして行ってしまう。呆然と見送るロイにヒューズが言った。
「あ〜あ、行っちまったねぇ」
「ど、どうしようッ、ヒューズッ!」
 ロイは振り返るとおろおろとして言う。そんなロイにヒューズは肩を竦めた。
「どうしようって、自業自得だろ?諦めろよ」
「諦められる訳がないだろうッッ!!私はハボックを愛してるんだぞッッ!!」
 ロイは言って頭を掻き毟る。「私のハボックがッッ」と悶えるロイにヒューズはため息をついて言った。
「ホントに好きなら態度で示せよ」
「たっ、態度でっ?どうやってッ?好きだっていっぱいチュウすればいいのかッ?」
「阿保か、お前は」
 ググッと顔を寄せて怒鳴るロイをヒューズは顔をしかめて押しやる。ロイが手にした袋を指さして言った。
「それ。ワンコがみんなに感謝を伝えたいって渡したんだろ?そいつを持って来ちまったんだからさ、返せよ」
 そう言われてロイは目を丸くする。紙袋の中をチラリと見、ヒューズの顔を見てロイは言った。
「返せって……私にこれをみんなに返して回れと言うのか?」
「少尉が好きなんだろう?少尉の気持ちを踏みにじるような事、するなよ」
 そう言われてロイはグッと言葉を飲み込む。言い返す言葉などなくて、ロイは深いため息をついた。
「そうだな、確かに私は自分のことしか考えてなかった。ハボックがどんな気持ちでこれをみんなに渡して回っていたか」
『いつもありがとうございます』
 クッキーを差し出しながらそう言ったハボック。きっと本当に素直な感謝の気持ちを乗せてみんなにクッキーを配ったに違いない。そんな心のこもったクッキーを自分はつまらない嫉妬に駆られて取り上げてきてしまったのだ。
「判った……返してくるよ」
「まあ、頑張んな」
 フゥと息を吐き出して言うロイにヒューズが笑って言う。握った拳を差し出してくるのに自分のそれを合わせて、ロイは紙袋を手に歩きだした。


 ガチャッと勢いよく扉を開ければ中にいるハボック小隊の部下たちが一斉にロイを見る。今度はなんだと警戒するように見つめてくる沢山の視線に怯みかけながら、ロイは無理矢理に笑みを浮かべた。
「あー、その、なんだなっ!クッキーを返そうと思ってなッ!」
 そう言うロイに部下たちが顔を見合わせる。益々警戒の色を濃くする部下たちを見ながらロイは紙袋に手を突っ込んだ。
「ほら、クッキー!これは誰のかなッ?」
 沢山あるクッキーはそれぞれ微妙にリボンの色が違う。ニコニコと過剰な笑みを浮かべるロイの前に部下の一人が進み出た。
「俺のです」
「おお、君のか!その────すまなかったな」
「ッ?」
 僅かに視線を逸らして謝罪の言葉を口にするロイをマイクが驚いたように見る。他の部下にも一人ずつクッキーを返してロイが詰め所を出ようとすると、マイクが口を開いた。
「マスタング大佐」
 呼び止める声にロイは足を止めて振り向く。そうすればマイクがロイを見つめて言った。
「隊長はいつも大佐の話をしてます。大佐がこんなことを言った、こんなことをした、大佐が大佐がって毎日毎日貴方のことばかり。誰が見ても本当に好きなんだなぁって判るくらいに……。だから貴方が俺たちに嫉妬する必要なんてこれっぽっちもありません」
 そう言うマイクをロイは目を見開いて見つめる。ふと部屋の中を見回せば、部下たちの誰もが頷いたり笑ったりしていた。
「ありがとう、本当にすまなかった」
 ロイは笑みを浮かべてそう言うと小隊の詰め所を後にした。


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