Jealousy cookies


「隊長からのクッキーかぁ!」
「勿体なくて食べられねぇよっ」
「俺は今夜から毎晩これを抱いて寝るぞッ」
 ハボックから貰ったクッキーを手に、ハボックの部下たちが嬉しそうに言葉を交わす。その時、バンッと詰め所の扉が開いて、部下たちは驚いて入口を見た。
「マスタング大佐……?」
 そこに立っているのがロイだと気づいて、部下たちは顔を見合わせる。中の一人が用件を聞こうと立ち上がれば、ロイがズイと詰め所に足を踏み入れた。
「あの……なんでしょう、マスタング大佐?」
 特に出動の要請も訓練の計画も今の時間はなにもなかったはずだ。恐る恐る上官に尋ねる部下をロイはギロリと睨んだ。
「な、な、なにか……っ?マスタング大佐……っ?」
「寄越したまえ」
「え?」
 言って差し出された手を部下たちは不思議そうに見つめる。一体全体なんなんだと混乱する部下たちにロイが声を張り上げた。
「ハボックのクッキーだッ!全部ここへ出せッッ!!」
「うわ……ッ、は、はいッッ!!」
 ビリビリと空気を震わせる声に、部下たちは飛び上がってクッキーの袋を差し出す。ロイは差し出された袋の数と部下たちの数を数えて目を細めた。
「正直に出さないと」
 ロイは言いながら発火布を填めた手を持ち上げる。そうすれば、更に二つの袋が差し出された。
「最初から素直に出せと言うんだ」
「もっ、申し訳ありませんッッ!!」
 平伏する部下を見下ろしてロイはチッと舌打ちする。ガサガサと集めた袋を大きな紙袋に詰めさせて、ロイは紙袋を手にジロリと部下たちを見回した。
「ハボックのクッキーを食べようなどとは図々しいにもほどがある。もし次こんな事があれば容赦なく燃やすからな、覚えておけッ!」
「「イエッサーッ!!」
 ロイの剣幕に震え上がって部下たちが一斉に敬礼する。フンと顎を突き出したロイが出ていくと、詰め所にはクッキーを奪われて打ちひしがれる部下たちが残った。


「まったく、ハボックのああいう性格も困ったもんだ」
 ロイはクッキーの袋が入った大袋を手に廊下を歩きながら呟く。
「あとハボックがクッキーをばらまくとしたらどこだ……?中尉は最後にするとして……」
 ブレダたちに配っているのだから当然ホークアイにも渡しているだろう。だが、生憎ホークアイは外出中だったから彼女が戻る前に残りのクッキーを回収してしまおうと思いながらロイが歩いていれば、休憩所から賑やかな声が聞こえた。
「ヒューズ!お前、こっちに来てたのか」
 聞き覚えのある声に休憩所を覗けば、眼鏡をかけた髭面がソファーにどっかりと座っているのを見てロイは目を見開く。ヒューズは煙草の煙を吐き出してニヤリと笑うと言った。
「ああ、ちょっとこっちに用事があってな。相変わらずリザちゃんに怒られてんのか?ロイ」
「相変わらずとはなんだ、失礼な奴だな」
 とんでもないことを言うヒューズをロイはギロリと睨む。だが、つきあいの長い男はロイの鋭い眼光にも全く怯むことなくプカリと煙草の煙を吐き出した。
「おい、ヒューズ。まさかとは思うがお前、ハボックから何か受け取りはしなかったか?」
「ワンコから?ああ、貰ったぜ」
 これ、とヒューズはポケットから袋を取り出す。ヒューズは袋を開けるとクッキーを摘みポンと口に放り込んだ。
「日頃世話になってる礼だってさ。いやあ、マメだよな、アイツ」
 モグモグと口を動かしながらヒューズが言う。もう一枚と袋からクッキーを取り出そうとしたヒューズは、いきなりガシッと手首を掴まれて目を丸くしてロイを見た。
「なんだよ、わりぃが俺にお前とそーゆー事をする趣味はねぇぞ」
 ワンコ相手だったら考えるけどな、とニシシと笑うヒューズにロイのこめかみがピクピクと震える。ロイは掴んだ手首を捻り上げてヒューズを間近から睨んだ。
「私のハボックの手作りクッキーを食べるとは……赦さんッッ!!」
「は?なに言ってんの、お前」
 ヒューズはそんなロイを眉を寄せて見つめる。己の手首を掴むロイの手を振り払ってヒューズは言った。
「これはワンコが俺にくれたんだよ。食べようがどうしようが俺の勝手────」
「ハボックのクッキーを食べていいのは私だけだッ!!」
「おっとー」
 だが、言い終える前に奪い取ろうと伸びてきたロイの手をヒューズは難なく交わすと、クッキーを更に一つ口に放り込んだ。
「貴様ッッ!」
「へへーんッ、このクッキーはワンコが俺にくれたんだもんねッ!お前に難癖付けられる覚えはねぇ!」
「なんだとッ?あっ、食うなッッ!!」
 そう言葉を交わす間にもヒューズはパクパクとクッキーを食べてしまう。あっと言う間に平らげて空になった袋をこれ見よがしにロイに向かって振って見せた。
「もう食べちゃったもんね!あ〜旨かったァ!ワンコのクッキー、最高ッ」
 語尾にハートを散りばめて言うヒューズをロイはギリギリと歯を食いしばって睨む。
「こ、の……ッ、クソ髭ッッ!!」
 低く呻いたロイがヒューズに向かって指をすりあわせようとした時、呆れたような声が響いた。
「なにをなさってるんですか、お二人とも」
「あ、リザちゃん。──と、ワンコも」
 声のする方を見れば休憩所の入口にホークアイとハボックが立っている。ヒューズは頭の後ろで手を組んで言った。
「なにって、ロイの奴が少尉のクッキー食うなって言うからさ」
「えっ?」
 その言葉にハボックが驚いて目を丸くする。
「あ、でも安心しな。もう全部食っちまったから。旨かったよ〜、ありがとうな、少尉」
「は、はいっ、どういたしまして」
 ニッと笑ってウィンクするヒューズにハボックがホッと息を吐き出して笑みを浮かべる。そんな二人を見て、ホークアイが口を開いた。


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