Black currant Cinderella


「ロイ、この間届けたジャムはどうだった?」
「うん、残念だがあのジャムはなかったよ」
 大学の食堂で一緒に昼飯を食べながらヒューズが尋ねたが、ロイは首を横に振る。ジャム募集を始めてから一週間、気がつけば百を越えるジャムがロイの元に届けられていたがロイが探しているジャムは一向に見つからなかった。
「本当にないのか?意外と思いこみが激しくなって違う味だと思ってんじゃねぇ?」
 あのチョコの送り主は十中八九このアメストリス学園の学生だろう。そうであればジャム募集にもジャムを届けている可能性が大きかった。
「いや、絶対にないと思う。似ているのはあったがどれも違う。食べれば私には絶対に判る」
「ふぅん、そんなもんかねぇ」
 きっぱりと言い切るロイにヒューズは言う。
「まあ、お前がそうまで言うならもう少し募ってみるか」
「悪いな、ヒューズ」
 すまなそうに言って、ロイはコーヒーを口に運んだ。


 昼食の後の講義は休講だった。思いがけず出来た時間を、ロイは有意義に過ごそうとゆっくりと本を読める場所を探す。大学の構内を抜け春めいた陽射しの中歩いていけば、不意にワアッと言う歓声が聞こえて、ロイは声のした方へ足を向けた。
「ここは……中等部のグラウンドか」
 気がつけば随分と来ていたらしい。ロイはフェンス越しグラウンドで走り回る中学生を眺めた。
「サッカーの授業?教師が見あたらんな」
 授業にしては雰囲気が雑然としている。その時、大きく逸れたボールがロイが見ている近くに転がってきた。そのボールを追ってスラリと背の高い少年が走ってくる。ロイがそれが誰かに気づいたのとほぼ同時に、ロイに気づいた少年が空色の瞳を見開いた。
「ハボック」
「マスタング先輩っ?」
 ハボックは転がったボールを拾い上げてロイを見る。驚きに見開く空色を見つめてロイは言った。
「サッカーの授業か?」
「えっと、授業っスけど、今は自習かな。先生、用事があるって職員室行っちゃったんで」
 小首を傾げて考えつつ言う仕草にロイは笑みを浮かべる。そうすればハボックが不思議そうにロイを見た。
「ああ、いや。なんでもないよ。中学生というのは可愛いんだなと思っただけだ」
「可愛いって……男なのに」
 ロイの言葉にハボックがほんの少し不満そうに頬を膨らませる。その時、級友が呼ぶ声がして、ハボックは言った。
「あ、オレ、行かないと。じゃあ失礼します!」
 ハボックは頭を下げるとボールを手に行ってしまう。級友たちと一緒にグラウンドを駆け回るハボックを見つめるロイの顔に笑みが浮かんでいた。



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