Black currant Cinderella


「ローイーく〜ん!マースくんが来ましたよー」
 ドンドンと扉を叩く音と共に間延びした声が聞こえて、ロイは思い切り舌打ちする。足音も荒く玄関に出てバンッと勢いよく扉を開ければ、丁度買い物から帰ってきたらしい隣の家の女性が笑いをこらえて会釈してくるのと目が合い、ロイは苦笑いして会釈を返すとヒューズの腕を掴んで中に引っ張り込んだ。
「お前はッ!もう少しまともに訪ねて来られんのかッ!」
「なんだよ〜、折角ジャム募集で集まってきたジャム持ってきてやったのに。そんな事言うならあげないからねッ」
「なにッ?そう言うことは先に言え!」
 ロイはジャムの入った袋を抱え込むヒューズの腕から袋を奪い取る。袋の中には様々なジャムの瓶が二十個ほども入っていた。
「昨日の午後、大学のイントラに上げといたのよ。お前さんとこに直接だと大混乱になりそうだから、窓口は俺にしておいた」
 美味しい黒スグリのジャムを探しているのはロイだが、直接ロイに届けるようにしたらそれこそ大変なことになるだろう。
「すまんな、ヒューズ」
 ロイは言いながら瓶をテーブルに並べる。スプーンを持ってくると蓋を開けては味を確かめ始めた。
「どうよ?」
 一通り味をみたロイにヒューズは尋ねる。ロイは肩を落として首を振った。
「そっか。まあ、まだ最初だからな。まだまだこれから来るだろうから、楽しみに待っとけ」
「そうだな……」
 ヒューズの言葉にロイは残念そうにため息をつきながらも笑みを浮かべて頷いた。


「ただいまー」
 ハボックはポケットから出した鍵で中に入る。“ただいま”と言いはしたものの両親は仕事で家の中には誰もいなかった。
 ハボックは二階の自分の部屋に鞄を置くとダイニングに降りてくる。冷蔵庫を開けヨーグルトと黒スグリのジャムを取り出した。器にヨーグルトを入れジャムを落とす。軽くかき混ぜて口にすれば甘酸っぱい爽やかさにハボックは笑みを浮かべた。
「ん、おいし」
 ハボックはあっと言う間に食べてしまうとホッと息を吐く。ふとカレンダーを見れば明日はもうホワイトデーだった。
「マスタング先輩、誰かにお返しするのかな……」
 この間ルイスが言っていた事を思い出してハボックは呟く。自分が作って贈った黒スグリのジャム入りのチョコレートは紙袋の中で他のチョコレートに潰されてひしゃげてしまっただろうか。
「食べて欲しかったなぁ……」
 ハボックは器の中に残ったジャムを見つめてそっとため息をついた。


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